※この記事の数字は、すべて厚生労働省の統計表を実際に開いて、表から書き写したものです(確認日:2026年9月13日)。使ったのは「令和7年雇用動向調査結果の概況」の図表ファイルと、「令和7年賃金構造基本統計調査」(職種)第5表の2つだけで、転職サービスの独自調査やまとめサイトの数字は使っていません。筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在はファッションバイヤー兼古物商です。
ミドルで効いているのは年齢の壁ではありません。職種ごとの賃金の上がり方です。
販売店員の月給は25〜29歳から45〜49歳までの20年で15.7%しか上がりません。同じ20年で営業職は46.9%上がります。その結果、両者の月給差は6.4万円から17.2万円へ、2.7倍に開きます。ミドルの転職で決めるのは「どこの会社に行くか」ではなく「どのカーブに乗り換えるか」です。
2.7倍に開く表を見る「ミドル」という区分は、国の統計に存在しません
先に、話の土台をはっきりさせておきます。
転職サービスの画面には「ミドル層向け」「ミドル世代の求人」という言葉が並びます。ところが、この記事で使う2つの国の統計を実際に開いても、「ミドル」という欄はどこにもありません。あるのは5歳きざみの年齢階級だけです。19歳以下、20〜24歳、25〜29歳……と機械的に区切られているだけで、そこに名前は付いていません。
つまり「ミドルは転職しにくい」という言い方は、統計から出てきた結論ではありません。年齢のどこかに線を引いたのは、統計ではなく、募集する側です。
では、線を引くならどこに引くべきなのか。統計を開くと、年齢そのものより先に動いているものが2つ見つかります。辞める理由と、給料の上がり方です。
ミドルが辞める理由は、20代と入れ替わっています
厚生労働省の雇用動向調査は、1年間に転職した人へ「前の職場を辞めた理由」を聞いています。しかも年齢階級ごとに出ています。まず、その表を見てください。全産業の男性の数字です。
| 年齢階級 | 給料等収入が 少なかった | 能力・個性・資格を 生かせなかった | 会社の将来が 不安だった | 職場の人間関係が 好ましくなかった |
|---|---|---|---|---|
| 20〜24歳 | 13.8 | 3.5 | 2.4 | 10.3 |
| 25〜29歳 | 13.1 | 5.6 | 11.0 | 10.7 |
| 30〜34歳 | 13.4 | 5.2 | 10.0 | 5.9 |
| 35〜39歳 | 11.2 | 6.9 | 12.7 | 9.5 |
| 40〜44歳 | 9.5 | 11.0 | 10.7 | 7.3 |
| 45〜49歳 | 11.5 | 6.5 | 5.8 | 13.3 |
| 50〜54歳 | 11.6 | 6.0 | 9.2 | 7.9 |
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出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」図表ファイル 表5 転職入職者が前職を辞めた理由別割合(単位:%・令和7年・男・全産業/2026年9月13日に表から書き写し)
2つの列を上から下へ追ってください。動きが逆になっています。
出典:上の表5から筆者が引き算したもの(引いた数字はすべて表に載っています)
20代が辞める理由の1位は、はっきり「給料が少ない」です。ところが40〜44歳では、その項目が9.5%まで下がり、代わりに「能力・個性・資格を生かせなかった」が11.0%で上に出ます。40代前半は、この表の中で唯一、給料より「生かせていない」が勝つ年齢階級です。
店頭に立っている人なら、この入れ替わりには心当たりがあるはずです。20代のころは時給や手当の話でした。いまは違う。「この15年でためたものが、このまま置き場所を変えないと使われずに終わる」という感覚のほうが強い。統計はそれを、5.6%から11.0%という形で拾っています。
問題は、この「生かせていない」がどこから来ているかです。本人の努力不足ではありません。次の表を見ると、原因は本人の外にあることが分かります。
「生かせていない」の正体は、職種ごとの賃金カーブです
ここがこの記事の中心です。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査には、職種ごと・年齢階級ごとの給与額を載せた表があります。同じ年に、同じ調査で、同じ単位で並んでいるので、職種と職種をそのまま比べられます。月の所定内給与額(残業代を含まない、決まって支払われる分)を4職種で並べます。
| 年齢階級 | 販売店員 店頭の販売職 | 営業・販売 事務従事者 | 総合事務員 | その他の 営業職業従事者 |
|---|---|---|---|---|
| 20〜24歳 | 234.0 | 243.8 | 250.5 | 262.2 |
| 25〜29歳 | 249.8 | 274.3 | 279.6 | 313.6 |
| 30〜34歳 | 263.5 | 307.1 | 311.9 | 352.4 |
| 35〜39歳 | 272.3 | 332.4 | 337.5 | 388.1 |
| 40〜44歳 | 284.6 | 350.3 | 352.6 | 433.8 |
| 45〜49歳 | 289.0 | 346.8 | 354.5 | 460.6 |
| 50〜54歳 | 286.0 | 363.7 | 360.9 | 485.1 |
| 55〜59歳 | 272.4 | 382.6 | 377.1 | 504.2 |
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出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(職種)第5表 職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額等(所定内給与額・単位:千円/月・男女計・産業計・企業規模10人以上/2026年9月13日に表から書き写し)
数字は千円単位です。販売店員の45〜49歳「289.0」は、月28万9,000円という意味になります。
見るところは1列目と4列目です。20〜24歳の時点では、両者の差は2.8万円しかありません。そこから20年かけて、差だけが育ちます。
出典:上の第5表の25〜29歳と45〜49歳から筆者が計算した増加率(もとの数字はすべて表に載っています)
差の開き方を、そのまま書き出します。
出典:上の第5表の所定内給与額から筆者が引き算したもの(千円未満は表の値のまま)
賞与まで足すと、差はさらに広がります。所定内給与を12か月分にして、年間賞与その他特別給与額を足した額です。
| 年齢階級 | 販売店員 | その他の営業職業従事者 | 差 |
|---|---|---|---|
| 25〜29歳 | 344.9 | 471.7 | 126.8 |
| 45〜49歳 | 406.2 | 715.5 | 309.3 |
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出典:上の第5表の「所定内給与額×12+年間賞与その他特別給与額」を筆者が計算(単位:万円・小数第2位を四捨五入/もとの数字はすべて第5表に載っています)
ここまで見れば、さきほどの「能力・個性・資格を生かせなかった」が40代前半で倍になる理由は説明がつきます。販売店員のカーブは45〜49歳の289.0千円で頭打ちになり、そこから下を向きます。15年20年と現場で積み上げたものが、月給という形では返ってこない。返ってこないことに気づくのが、ちょうど40代前半です。
逆に言えば、これは年齢の問題ではなく、乗っているカーブの問題です。年齢は誰にも変えられませんが、カーブは乗り換えられます。
では、乗り換えを考える時間はどれくらい残っているのか。それも統計で確かめられます。
ミドルのうちは、まだ8割が「自分で選んで辞めた」側です
同じ雇用動向調査に、離職した理由を「事業所側の理由」「個人的理由」「定年」などに分けた表があります。会社の都合で辞めることになった人が、年齢とともにどれだけ増えるかが分かります。
| 年齢階級 | 個人的理由 自分で決めて辞めた | 事業所側の理由 会社の都合で辞めた | うち経営上の都合 |
|---|---|---|---|
| 25〜29歳 | 82.0 | 4.7 | 1.0 |
| 30〜34歳 | 82.6 | 8.0 | 2.4 |
| 35〜39歳 | 79.8 | 10.4 | 3.0 |
| 40〜44歳 | 81.6 | 8.7 | 2.6 |
| 45〜49歳 | 76.7 | 12.9 | 3.0 |
| 50〜54歳 | 71.3 | 18.6 | 3.4 |
| 55〜59歳 | 67.4 | 22.5 | 9.6 |
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出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」図表ファイル 付属統計表3-1 性、年齢階級別にみた離職理由別離職者の割合(単位:%・令和7年・男/2026年9月13日に表から書き写し)
「事業所側の理由」の列は、きれいな一直線ではありません。40〜44歳でいったん8.7%に下がっています。はっきりした段ができるのは45歳からです。12.9%、18.6%、22.5%と、5歳ごとに積み上がっていきます。
裏返せば、45歳未満なら8割前後が「自分で決めて辞めた」側にいます。この差は、選択肢の数の差です。自分で決めて動く人は、行き先を比べてから決められます。会社の都合で辞めることになった人は、比べる時間のほうを先に失います。
統計が示しているのは「45歳あたりから、自分で決められる割合が落ちはじめる」ということだけです。いま辞めろという意味ではありません。辞めるかどうかより先に、他の職種の条件を並べて見る。それは在職中にできて、やめても何も減りません。
自分がどの職種に近いのか、どのカーブなら経験が値段になるのかは、条件をいくつか選べば当たりが付きます。辞めるかどうかを決める前に、並べて見るところから始めるのがいちばん早いです。
いまの条件から、向いている行き先を出す 年収の目安と、そう出た理由もいっしょに表示されますいま乗っているカーブを、5つの質問で判定する
ここまでの表を、自分の話に落とします。当てはまるものを数えてください。
3つ以上あてはまるなら、乗り換えを検討する段階です
- この3年で、基本給が月1万円以上は動いていない
- 役職手当は付いたが、それを引くと基本給は同期の他業種より低い
- 自分より10歳上の先輩の給与額を聞いても、驚くほど変わらない
- 評価されているのは「売った数字」で、「仕組みを作ったこと」ではない
- いまの仕事の内容を、社外の人に3行で説明できない
→ 3つ以上なら、あなたが乗っているのは販売店員のカーブです。頑張る量ではなく、置き場所を変える話になります。
とくに4つ目と5つ目が効きます。ミドルの転職で値段が付くのは、売った数字ではなく「再現できる仕組み」のほうだからです。個人売上の金額は、その店・その立地・その客層とセットでしか意味を持ちません。一方で「在庫の回し方を変えて消化率を何ポイント上げた」「新人の立ち上がりを何か月短くした」は、会社が変わっても持って行けます。
社内に職種転換の制度があるなら、そちらのほうが早くて安全です。同じ会社の中でカーブを乗り換えられるなら、それがいちばん損が少ない。制度があるかどうかは、就業規則か人事に聞けば分かります。
乗り換え先は、3つの方向に分かれます
販売店員のカーブから外へ出る道は、大きく3つです。それぞれ、この記事の表のどこに着地するかも書いておきます。
| 方向 | 持って行けるもの | 第5表での着地 | ミドルでの入りやすさ |
|---|---|---|---|
| 売る相手を会社に変える 卸・法人営業 | 商品知識/交渉/数字の読み方 | その他の営業職業従事者 45〜49歳 460.6 | 販売の経験がそのまま説明材料になる |
| 売場から本社機能へ MD・バイヤー・VMD | 在庫の感覚/客層の読み/消化率 | 営業・販売事務従事者ほか 45〜49歳 346.8 | 店長・エリア職の経験が要ることが多い |
| 業界の外へ出る 事務・カスタマー系 | 接客/クレーム対応/教育 | 総合事務員 45〜49歳 354.5 | 年収は上がるが未経験扱いになりやすい |
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「第5表での着地」の数字は、この記事の賃金カーブの表と同じ出典(令和7年賃金構造基本統計調査(職種)第5表・所定内給与額・千円/月)です。職種の対応づけは、統計の小分類名をもとに筆者が整理したものです。
「その他の営業職業従事者」とは何か(統計の中身)
賃金構造基本統計調査の営業職は、自動車営業・機械器具や通信やシステムの営業・金融営業・保険営業と、それ以外に分かれています。この記事で使った「その他の営業職業従事者」は、その4つに入らない営業の合計で、労働者数は90,741人です。アパレルの卸やメーカーの法人営業は、この区分に入ります。特定の商材だけを集めた数字ではないので、そのまま「アパレル営業の給料」として読まないでください。
どの方向が自分に合うかは、いまの役職・経験年数・動かせる条件で変わります。3つのどれに近いかが決まると、次に見る求人の種類まで絞れます。
3つのどの方向が近いか診断する 向いている転職エージェント・求人サイトを最大3つまで表示します在職中に、この順番で進めます
ミドルの転職でいちばんもったいないのは、先に辞めてしまうことです。選択肢を比べられるのは在職中だけなので、順番を決めておきます。
- いまの基本給と手当を、紙に分けて書く
役職手当・皆勤・住宅などを引いて、素の基本給がいくらかを出します。この記事の表と比べられるのは、この数字だけです。比べる相手を間違えると、動く必要があるかどうかの判断ごと狂います。
- 直近3年の仕事を、数字が付く形に言い換える
「接客を頑張った」ではなく「消化率を何%から何%へ」「新人の独り立ちを何か月から何か月へ」。売った金額ではなく、変えた仕組みのほうを書きます。ここがミドルの職務経歴書の中身になります。
- 社内に職種転換の制度があるか確かめる
就業規則か人事に聞きます。あるなら、まずそちらが最短です。無い、または実績が無いと分かった時点で、外を見る理由が1つ確定します。
- 3つの方向のうち、2つに絞って求人の条件だけ見る
応募はまだしません。年齢・経験年数・必須要件の書かれ方を見るだけです。この段階で「思ったより入口が広い」か「やはり狭い」かが分かります。
- 絞れてから、はじめて登録・応募に進む
ここまでやっておくと、面談で「何ができて、何を持って行けるか」を自分の言葉で言えます。ミドルの面談で聞かれるのは志望動機ではなく、ここです。
まとめ
ミドルのアパレル転職で本当に効いているものを、もう一度だけ並べます。
- 「ミドル」は統計の区分ではない
この記事で使った2つの国の統計に、その欄はありません。線を引いたのは募集する側です。
- 辞める理由が入れ替わる
「給料が少ない」は20〜24歳の13.8%から40〜44歳で9.5%へ下がり、代わりに「能力・個性・資格を生かせなかった」が5.6%から11.0%へ倍になります。
- 原因は本人ではなく賃金カーブ
販売店員の月給は25〜29歳からの20年で15.7%しか伸びず、45〜49歳の289.0千円で頭打ちになります。営業職は同じ20年で46.9%伸び、その先も伸び続けます。
- 差は2.7倍に開く
月給差は6.4万円から17.2万円へ。賞与まで足した年額の差は126.8万円から309.3万円になります。
- 比べられる時間は45歳で減りはじめる
会社の都合で辞めた人の割合は、45〜49歳で12.9%、50〜54歳で18.6%。自分で決めて動けるうちに、条件を並べておくことです。
年齢は動かせません。乗っているカーブは動かせます。ミドルの転職で決めるのは、会社ではなく職種です。
自分が乗り換えられるカーブを診断する 所要1分・登録不要/在職中でも、見るだけなら何も動きません