筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在はファッションバイヤーとブランド古着の買取業を営んでいます。この記事に出てくる条文と指針の文言は、すべて e-Gov法令検索と厚生労働省のサイトを実際に開いて引き写したものです。派遣会社や求人サイトの説明は根拠に使っていません。情報の時点は2026年9月16日です。
派遣にノルマを出すこと自体は違法ではありません。違法になるのは出し方のほうで、しかも詰めてきた派遣先の店にも法律上の義務があります。
「雇われているのは派遣会社、詰めてくるのは派遣先の店長。どっちに言えばいいのか分からない」——この記事はそこだけを解きます。労働者派遣法47条の4は、派遣先をあなたを雇用する事業主とみなすと書いています。つまり言う先は2つあります。
まず違法かどうかの線を見るノルマがあること自体は違法ではない
先に、いちばん誤解されているところを片付けます。個人売上の目標を課すこと自体を禁止した法律はありません。派遣だから目標を持たされない、ということもありません。
では何が問題になるのか。判断の物差しは、厚生労働省が出しているパワーハラスメント指針(令和2年厚生労働省告示第5号)です。この指針はパワハラを6つの型に分けていて、ノルマの話が入るのは「ニ 過大な要求」という型です。正式には「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害」と書かれています。
この指針が親切なのは、該当する例と該当しない例を、両方とも具体的に書いていることです。そのまま引き写します。
該当すると考えられる例
- 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること
- 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること
- 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること
該当しないと考えられる例
- 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること
- 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること
出典:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)(2026年9月16日に取得)
並べて読むと、線がどこに引かれているかが見えてきます。目標の高さそのものではなく、「教育をしたか」「到底対応できないか」「達成できなかったときに叱責したか」の3点セットで見られています。
派遣でアパレルの店頭に入る人は、ここで引っかかりやすい立場にいます。入店してすぐ、その店の商品知識も接客の型も教わらないまま、その日から社員と同じ売上目標を割り振られる。そして達成できないとバックヤードで詰められる。指針の2つめの例と、形がほとんど同じです。
指針が見ているのは、目標の数字そのものではありません。教育の有無と、未達のときの扱いです。自分のケースを判定する材料は、この記事の後半にチェックリストで用意しました。
詰めてくるのが派遣先でも、義務は派遣先にある
ここが、派遣で働く人にとっていちばん重要な部分です。
派遣は、契約が2本に分かれています。雇用契約を結んでいるのは派遣会社(派遣元)。給料も有給も社会保険もこちらから出ます。いっぽうでその日その場で指示を出すのは派遣先の店です。ノルマを割り振るのも、未達を詰めるのも、雇用契約を結んでいないほうの会社がやっています。
「雇われていない会社に、自分を守る義務なんてないのでは」と思うのが自然です。ここに条文が用意されています。労働者派遣法の第47条の4です。
労働者派遣の役務の提供を受ける者がその指揮命令の下に労働させる派遣労働者の当該労働者派遣に係る就業に関しては、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者もまた、当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、(略)第30条の2第1項(略)の規定を適用する。この場合において、同法第30条の2第1項中「雇用管理上」とあるのは、「雇用管理上及び指揮命令上」とする。
読み解くと、こうなります。
- 派遣先も「雇用する事業主」とみなされる
雇用契約が無くても、パワハラの相談窓口を置いたり、事実確認をして対処したりする義務(措置義務)が、派遣先の店にもかかります。
- 「雇用管理上」が「雇用管理上及び指揮命令上」に読み替わる
ここが効きます。ノルマを出すのはまさに指揮命令です。派遣先は「うちは雇い主じゃないので」と言って、指揮命令のしかたの責任から降りることができません。

もうひとつ、派遣元の側にも条文があります。第47条の5第2項は、派遣先が派遣労働者から苦情の申出を受けたときは、その自主的な解決を図るように努めなければならないと定めています。派遣元についても同条第1項に同じ趣旨の定めがあります。言う先は2つあって、どちらにも受け止める側の定めがある——これが派遣という働き方の設計です。
自分のケースはどちらか、6つで判定する
指針の文言を自分の状況に当てはめるのは、読んだだけだと難しいものです。さきほどの「該当する例」を分解して、確認しやすい形に直しました。
3つ以上あてはまるなら、指針の「過大な要求」を疑う段階です
- その店の商品知識・接客の型を教わる時間が、ほとんど無いまま売場に立たされた
- 社員と同じ、または社員より重い個人売上目標を割り振られている
- 目標の根拠(前年実績・客数・自分の稼働時間)を説明されたことがない
- 未達のときに、業務の改善の話ではなく人格や態度の話をされる
- 他のスタッフがいる場所で未達を読み上げられる、または貼り出される
- 達成のために自分で商品を買うことを、勧められたことがある
→ 3つ以上なら、次の章の順番で相談先をたどってください。1〜2個でも、記録だけは今日から取り始める価値があります。
相談する順番には意味がある
相談先が複数あると、かえって動けなくなります。順番を決めておきます。
- まず派遣元(派遣会社)の担当営業に、事実だけを伝える
評価や感情ではなく、記録した事実を渡します。派遣元は派遣先との契約を持っているので、あなたが直接言うより角が立ちません。多くのケースはここで止まります。
- 動かなければ、派遣元の相談窓口(担当営業ではない窓口)に上げる
措置義務の一部として窓口の設置が求められています。担当営業個人が握りつぶしている場合、ここで別の目が入ります。窓口の連絡先は、契約時に渡される書面か就業条件明示書に書かれています。
- 派遣先の相談窓口にも申し出る
47条の4で派遣先にも措置義務があります。派遣先の窓口は、派遣先の就業規則やハラスメント方針の掲示で確認できます。分からなければ派遣元経由で聞いてもらえます。
- それでも止まらなければ、都道府県労働局へ
労働者派遣法47条の7は、都道府県労働局長が紛争について助言・指導・勧告をすることができると定めています。費用はかかりません。さらに同法47条の8以降には調停の手続きも用意されています。
出典:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(e-Gov法令検索)第47条の4・第47条の5・第47条の7(2026年9月16日に取得)
「言ったら切られる」への、公式の答え
ここまで読んでも動けない理由は、たいてい1つです。言ったら次の更新が無いのではないか。派遣は契約期間が区切られているので、この不安はもっともです。
これについて、パワハラ指針は派遣労働者を名指しで書いています。相談を行ったこと等を理由とする不利益な取扱いの禁止について、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者もまた、当該者に派遣労働者が職場におけるパワーハラスメントの相談を行ったこと等を理由として、当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒む等、当該派遣労働者に対する不利益な取扱いを行ってはならないとしています。
「労働者派遣の役務の提供を拒む」——これは平たく言えば「もうこの人は来なくていい」と派遣先が言うことです。それを相談したことを理由にやるのは禁止だ、と指針が名指しで書いている。ここまで具体的に書かれているのは、実際にそれが起きてきたからです。
だからこそ、相談した日付と内容の記録が効きます。相談の記録と、そのあとに契約終了を告げられた日付が並んでいれば、理由の説明を求める材料になります。
自分で買って埋めるよう言われたときの線引き
アパレルのノルマの話は、最後にたいていここへ来ます。達成できないぶんを自分で買って埋める、という話です。
先に、正直に書いておきます。厚生労働省のパワハラ指針にも、ハラスメント対策のページにも、「自爆営業」という言葉は見当たりませんでした。指針に載っている言葉として扱うことはできません。判断は、さきほどの「過大な要求」に当たるかどうかに戻ります。
ただし、金銭の流れのほうには、はっきりした条文があります。労働基準法第24条です。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(略)当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
つまり、給料から商品代を天引きするには、書面による労使協定が必要です。協定なしに引かれていたら、それは全額払いの原則に反します。給与明細に見覚えのない控除項目がないか、いちど確認してください。
時給の下限は、ノルマとは別に決まっている
ノルマの話とあわせてよく聞かれるので、ここだけ触れておきます。ノルマを達成したかどうかで、派遣の時給の下限が下がることはありません。下限は法律の側で別に決まっています。
労使協定方式を採る派遣会社の場合、厚生労働省が毎年、職種ごとの一般賃金額を通知しています。アパレル販売が当てはまる「衣料品販売店員」(職種コード04507)の令和8年度適用の基準値は、経験0年で時給1,179円。これに地域指数(東京は111.4)を掛けたものが下限になります。
出典:厚生労働省 職業安定局長通達「令和8年度の一般の労働者の平均的な賃金の額等について」(職発0825第1号)別添2・別添3(2026年9月16日に取得)
計算のしかたと、自分の時給がこの下限を割っていないかの確かめ方は、別の記事にまとめてあります。この記事では深入りしません。
それでも変わらないなら、派遣先を替えるほうが早い
ここまでの手順を踏んでも、店の空気が変わらないことはあります。指針も条文も、店長の性格までは変えません。
派遣のいいところは、辞めなくても働く場所だけを替えられることです。派遣元との雇用契約はそのままに、次の派遣先を探してもらう。これは正社員の転職よりずっと軽い手続きで済みます。担当営業に「別の就業先を紹介してほしい」と伝えるだけです。
派遣元ごと替えたい場合や、そもそもアパレルの派遣で条件のいい先を持っている会社を探したい場合は、アパレル専門の人材サービスを使ったほうが早いです。
iDA(株式会社iDA)
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iDAに無料で登録する 登録・相談は無料 / アパレル・ファッション専門の人材サービスまとめ
- ノルマ自体は違法ではない
問われるのは出し方です。教育をせず、到底対応できない目標を課し、未達を厳しく叱責する。この3点がそろうと、指針の「過大な要求」の例に重なります。
- 詰めてくる派遣先にも義務がある
派遣法47条の4が、派遣先を「雇用する事業主とみなす」と定めています。しかも「雇用管理上」は「雇用管理上及び指揮命令上」と読み替えられます。
- 相談先は2つ、最後に労働局がある
派遣元 → 派遣元の窓口 → 派遣先の窓口 → 都道府県労働局。局長には助言・指導・勧告の権限があります。
- 相談を理由に切るのは禁止されている
指針が「労働者派遣の役務の提供を拒む」ことを名指しで不利益取扱いに挙げています。相談した日付を必ず記録してください。
- 賃金からの天引きには労使協定が要る
労基法24条の全額払いの原則です。買わされたかどうかと、給料から引かれたかどうかは、分けて考えます。
