この記事の数字は、厚生労働省が公表している「労働者派遣事業報告書」の集計結果と、職業安定局長通達の別添を実際に開いて、そこに書かれている内容だけを使って出しています。求人サイトの相場情報や、体験談をまとめたページの数字は使っていません。時給換算・差額・割合のうち、集計結果に載っていないものは筆者が計算したと本文に明記しました。筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在はファッションバイヤー兼古物商として仕入れと買取の仕事をしています。確認日は本文の出典に書きました。
「やめとけ」の言い分を5つ並べて国の集計と突き合わせると、当たっていたのは1つだけでした。
当たっていたのは「3年たっても直接雇用にはならない」。同じ職場で3年になる見込みがあり、続けたいと希望した92,809人のうち、実際に派遣先に雇われたのは9,174人でした。残りの4つ——中抜き・使い捨て・先細り・時給が上がらない——は、集計を見るかぎり当たっていないか、半分だけです。
当たっていた1つから見る言い分①「3年たっても正社員になれない」→ ○ 当たっている
「アパレル 派遣 やめとけ」で出てくる話のうち、いちばん多いのがこれです。そしてこれは、残念ながら数字でも裏づけられます。
3年になる見込みで、続けて働くことを希望した人のうち、実際に派遣先に雇われたのは約10人にひとりです。制度は「依頼する義務」までしか用意していません。
同じ職場に3年続けて派遣される見込みがあり、本人が継続を希望している場合、派遣元には雇用安定措置という義務が生じます。措置は4つあり、そのうち1つめが「派遣先への直接雇用の依頼」です。集計結果には、この措置が1年間で実際に何人に対して行われたかが載っています。

出典:厚生労働省「労働者派遣事業の令和6年度事業報告の集計結果(速報)」表13PDF/掲載ページは労働者派遣事業の事業報告の集計結果。23.2%と42.7%は同表に記載の割合、母数比9.9%は筆者が計算。2026年9月9日に確認
ただし、この数字の読み方には続きがあります。依頼までたどり着いた21,495人の中では、42.7%が実際に雇われています。門が狭いのは「雇ってもらえるかどうか」ではなく、その手前の「依頼してもらえるかどうか」のほうです。
もうひとつ、いちばん多く行われた措置は「新たな派遣先の提供」で585,483人でした。全対象者の51.8%です。つまり制度が現に動いている中身は、直接雇用ではなく別の職場を紹介することだと思っておいたほうが、期待の置き場所を間違えません。
3年ルールと雇用安定措置の制度そのもの(4つの措置の中身、事業所単位と個人単位の違い)は、別の記事で分けて書きました。仕組みを先に押さえたい人はそちらへどうぞ。
言い分②「時給が上がらない」→ △ 半分だけ当たっている
アパレル販売が入る「商品販売従事者」の賃金は、派遣全体の平均の約68%です。ただし前年度からは2.8%上がっており、来年度からは法律上の下限そのものが8.0%上がります。
集計結果には、職種ごとの賃金が1日8時間あたりの額で載っています。アパレルの店頭に立つ仕事は、統計の分類でいう「商品販売従事者」に入ります。
| 区分 | 賃金(8時間) | 時給に直すと | 全業務平均との差 |
|---|---|---|---|
| 派遣の全業務平均 | 16,735円 | 約2,092円 | — |
| 営業職業従事者 | 16,193円 | 約2,024円 | −68円 |
| 事務用機器操作員 | 13,383円 | 約1,673円 | −419円 |
| 一般事務従事者 | 12,231円 | 約1,529円 | −563円 |
| 商品販売従事者(アパレル販売) | 11,372円 | 約1,422円 | −670円 |
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出典:厚生労働省「労働者派遣事業の令和6年度事業報告の集計結果(速報)」表7。時給換算(8で割った額)と差は筆者が計算。2026年9月9日に確認
「低い」のほうは当たっています。全業務の平均との差は1時間あたり670円で、月160時間なら10万円を超えます。ただし「上がらない」は当たっていません。同じ職種の前年度の額は11,062円でしたから、1年で2.8%上がっています。
そして、来年度はもっとはっきり上がります。派遣の時給には法律上の下限があり、その計算に使う「販売店員」の基準値が、国の通達で毎年更新されているからです。
出典:厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」に掲載の職業安定局長通達 別添1「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」令和8年度適用/令和9年度適用の職種コード1321「販売店員」の基準値(0年)。差と上がり幅は筆者が計算。2026年9月9日に確認
この基準値に、経験年数の指数と地域の指数を掛けたものが下限になります。掛け算の中身と、自分の額の出し方は別記事にまとめました。いくらもらえるかを先に知りたい人は、そちらのほうが直接効きます。
言い分③「派遣会社に中抜きされる」→ × 外れている
商品販売従事者のマージン率は30.7%で、派遣全体の平均36.3%を下回ります。時給が低いのは取り分の問題ではなく、店側が人件費に出している額そのものが低いからです。
集計結果には、派遣先が派遣会社に払っている「派遣料金」も職種ごとに載っています。賃金と並べれば、差がいくらなのかがそのまま出ます。
| 区分 | 派遣料金(8時間) | 賃金(8時間) | 差 | マージン率 |
|---|---|---|---|---|
| 派遣の全業務平均 | 26,257円 | 16,735円 | 9,522円 | 36.3% |
| 商品販売従事者 | 16,416円 | 11,372円 | 5,044円 | 30.7% |
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出典:厚生労働省「労働者派遣事業の令和6年度事業報告の集計結果(速報)」表6・表7。差とマージン率は筆者が計算。2026年9月9日に確認
読み取れるのは、抜かれる割合が特別に大きい職種ではないということです。それでも時給が低いのは、店側が1日8時間ぶんに出している額が16,416円(時給にして約2,052円)しかないからです。派遣会社を替えても、この前提は動きません。
もうひとつ。マージン率は各社が公表する義務があり、集計結果によると33,942の事業所(提出事業所の77.5%)がインターネットで公開しています。想像で判断せず、登録先の数字を見に行けます。
販売員だったころ、同じフロアの派遣の方の時給を聞いて「派遣会社が抜いているんだろう」と話していました。あとで派遣料金の統計を見て、抜かれる前の額そのものが低いことを知りました。怒る相手を間違えていたわけです。売場の人件費の予算は、店が決めています。
言い分④「スキルが身につかず使い捨てにされる」→ × ただし条件つき
教育訓練の費用は99.7%が実費負担なしの無償、99.2%が有給で行われています。キャリアコンサルティングは、希望した人のほぼ全員に実施されています。ただし「希望した人」が母数です。
派遣元には、派遣労働者へのキャリアアップに資する教育訓練とキャリアコンサルティングの実施が義務づけられています。それが名ばかりなのかどうかは、集計結果に出ています。
| 項目 | 希望した人 | 実施した人 | 割合 |
|---|---|---|---|
| キャリアコンサルティング(合計) | 465,798人 | 454,449人 | 97.6% |
| うち無期雇用派遣労働者 | 239,644人 | 234,156人 | 97.7% |
| うち有期雇用派遣労働者 | 226,154人 | 220,293人 | 97.4% |
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出典:厚生労働省「労働者派遣事業の令和6年度事業報告の集計結果(速報)」表11・表14。2026年9月9日に確認
ここで見落としてはいけないのが、この97.6%の母数は「実施を希望した者の人数」だということです。希望しなければ、この表には最初から乗りません。使い捨てにされたと感じる状況は、制度がないから起きるのではなく、用意されているものを使わないまま契約が終わるから起きます。
- 登録の面談で「キャリアコンサルティングを希望する」と口に出す
希望が記録されなければ、統計上も存在しない人になります。まずここが入り口です。
- 受けられる教育訓練の一覧を、契約前にもらう
費用は99.7%が実費負担なしで、賃金も99.2%が支払われる形で行われています。自己負担が前提の説明が出てきたら、そこは確かめる場面です。
- 直接雇用を望むなら、その希望を書面に残す
言い分①の分かれ目は「依頼してもらえるかどうか」でした。口頭だけで終わらせないことです。
言い分⑤「派遣は先細りの働き方」→ × 外れている
派遣で働く人は約220万人で前年度から3.9%増、なかでも無期雇用は7.9%増えました。派遣先の件数も売上高も伸びています。縮んでいる市場ではありません。
出典:厚生労働省「労働者派遣事業の令和6年度事業報告の集計結果(速報)」概要および表2・表3。2026年9月9日に確認
派遣先の件数も861,926件で7.9%増えています。いちばん動いているのは「無期雇用派遣」で、1年で7.9%増えました。同じ職種の賃金でも、無期雇用は1日8時間あたり11,830円(時給約1,479円)、有期雇用は11,299円(時給約1,412円)で、無期のほうが1時間あたり67円ほど上です。
そして、この働き方のルールは来月さらに変わります。厚生労働省は、派遣労働者の同一労働同一賃金について令和8年10月1日施行の改正を公表しており、そのひとつが、雇入れ時・派遣時の明示事項に「待遇の相違の内容及び理由等について説明を求めることができる旨」を追加するというものです。
出典:厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」。2026年9月9日に確認
つまり、「なぜ自分はこの条件なのか」を聞いていいことが、契約のときに紙で知らされるようになります。「聞ける空気ではなかった」を減らすための改正です。
「やめとけ」が当たる人と、当たらない人
5つのうち当たっていたのは1つでした。ということは、「やめとけ」が当たるかどうかは、あなたが派遣に何を期待して入るかで決まります。
「やめとけ」が当たる人
- 3年働けば正社員になれると思って入る
- 時給が上がるのを待つつもりでいる
- 教育訓練やキャリア相談を希望として出さない
- いまの店で働き続けること自体が目的になっている
「やめとけ」が当たらない人
- 直接雇用を望むと最初から書面で伝える
- 職種名と地域で下限が変わることを知っている
- 無期雇用派遣を扱う会社かどうかを確かめている
- 売場の経験を次のどこで使うかを決めている
3つ以上あてはまる人は、派遣より先に考えることがあります
- 正社員になれる可能性がいちばんの目的になっている
- いまの手取りを来年までに上げないと生活が回らない
- アパレルの売場そのものにこだわりがなくなってきた
- 店長・EC・本社など、売場以外の仕事も見てみたい
- 3年後の自分がどこにいるか想像できない
→ 3つ以上なら、派遣で入る前に「販売の経験がほかのどこで通るのか」を先に見たほうが早いです。
