筆者は元アパレル販売員で、現在はファッションバイヤー兼ブランド古着の買取業を営んでいます。この記事の金額はすべて厚生労働省が公表している集計結果から引いたもので、特定の派遣会社から提供を受けた数字は使っていません。情報の時点は2026年9月13日です。
アパレル派遣の時給は、全国平均でおよそ1,422円。上げたいなら、動かすのは住む場所ではなく職種です。
厚生労働省の集計では、商品販売の派遣で働く人の賃金は1日8時間あたり11,372円。時給に直すと約1,422円です。この記事では、その数字が高いのか低いのかを判断するための「ものさし」を2本お渡しします。下限を決めている最低賃金と、上限を決めている職種です。
まず全国平均を見るアパレル派遣の時給は、全国平均で1,422円
求人サイトを開くと、アパレルの派遣は「時給1,300円〜1,700円」のような幅で書かれています。この幅のどこが普通なのかが分からないと、提示された条件がいいのか悪いのか判断できません。
判断の土台になる数字が、厚生労働省の「労働者派遣事業報告書の集計結果」です。これは派遣会社が毎年の運営状況を国に報告する義務があり、それを集計したもの。求人サイトの募集時給(これから採用したい人に向けた、いちばん目立つ数字)ではなく、実際に働いている人に支払われた額が出てきます。
出典:厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」表7・概要(2026年9月13日に確認)
職種ごとに並べると、商品販売がどのあたりにいるのかがはっきりします。
| 職種(国の分類) | 1日8時間あたり | 8で割ると |
|---|---|---|
| 情報処理・通信技術者 | 21,032 | 2,629 |
| 営業職業従事者 | 16,193 | 2,024 |
| 全業務の平均 | 16,735 | 2,092 |
| 販売類似職業従事者 | 12,555 | 1,569 |
| 一般事務従事者 | 12,231 | 1,529 |
| 商品販売従事者(アパレル販売はここ) | 11,372 | 1,422 |
| 接客・給仕職業従事者 | 11,105 | 1,388 |
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出典:厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」表7(単位:円)。右端の列は筆者が8で割ったもの
アパレルの販売職は、この表の「商品販売従事者」に入ります。全業務の平均より1日あたり5,363円、時給に直すと約670円低い位置です。8時間働くと、情報処理の人との差はおよそ1万円になります。
住む場所を変えても、動くのは203円まで
「時給の高い都市部へ出れば上がるのでは」と考える人は多いと思います。実際、東京の求人と地方の求人では募集時給が違います。ただし、その差には天井があります。
派遣の時給の下限を決めているのは、都道府県ごとの最低賃金です。派遣で働く人の最低賃金は、派遣元の会社の所在地ではなく実際に働く派遣先の所在地で判断されます。つまり「どこの派遣会社に登録したか」ではなく「どこの店に立つか」で下限が決まります。
| 都道府県 | 最低賃金(円) | 東京との差 |
|---|---|---|
| 東京 | 1,226 | — |
| 神奈川 | 1,225 | -1 |
| 大阪 | 1,177 | -49 |
| 埼玉 | 1,141 | -85 |
| 愛知・千葉 | 1,140 | -86 |
| 京都 | 1,122 | -104 |
| 全国の加重平均 | 1,121 | -105 |
| 兵庫 | 1,116 | -110 |
| 広島 | 1,085 | -141 |
| 北海道 | 1,075 | -151 |
| 福岡 | 1,057 | -169 |
| 宮城 | 1,038 | -188 |
| 高知・宮崎・沖縄 | 1,023 | -203 |
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出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」令和7年度(2026年9月13日に確認)。47都道府県のうち主要な13区分を抜き出しています
いちばん高い東京(1,226円)と、いちばん低い高知・宮崎・沖縄(1,023円)の差は203円。これが、日本国内で住む場所を変えて動かせる下限の最大幅です。
203円は小さくありません。1日8時間・月20日で計算すると月32,480円になります。ただし、上京すれば家賃と交通費が増えます。時給だけを理由に引っ越すと、手元に残る額はかえって減ることがあります。
動かせる幅は最大で203円。同じ労力を職種の乗り換えに向けたほうが、あとで見るとおり動く幅が大きくなります。ただし「もともと都市部に出たい理由がある」なら別です。求人の数そのものが違うので、選べる範囲は確実に広がります。
職種を変えると、1,200円動く
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。同じ「時給を上げたい」でも、どこに手をかけるかで動かせる幅がまるで違います。

商品販売従事者(時給換算1,422円)と情報処理・通信技術者(同2,629円)の差は約1,200円。地域を動かして得られる203円の、およそ6倍です。
もちろん「じゃあ明日からエンジニアに」という話ではありません。ただ、この表には商品販売のすぐ上に現実的な行き先が並んでいます。一般事務が1,529円、販売類似職業が1,569円、営業職業従事者が2,024円。営業まで動けば、地域差3回分にあたる600円が乗ります。
派遣の時給換算(商品販売は全体のどこにいるか)
アパレルの販売経験は、この上の段に行くときに無駄になりません。売場での提案は営業の商談と同じ構造ですし、在庫と売上の数字を毎日見てきた経験は事務職の即戦力になります。どの方向なら自分の経験が使えるのかは、売場のどの部分を長くやってきたかで変わります。
自分の経験がどの職種で使えるか診断する 8つの質問に答えるだけ・所要1分・登録不要無期と有期で、1時間あたり67円ちがう
同じ商品販売の派遣でも、契約の形で金額が違います。期間の定めのない「無期雇用派遣」と、契約期間が決まっている「有期雇用派遣」です。
契約期間が決まっている
1,412円- 1日8時間あたり11,299円
- 登録して案件ごとに契約する形
- 働く期間と場所を選びやすい
- 契約が切れると収入も切れる
派遣会社と期間の定めなく契約する
1,479円- 1日8時間あたり11,830円
- 派遣先が変わっても雇用は続く
- 待機期間にも給与が出る形が多い
- 派遣先を自分では選びにくくなる
出典:厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」表7・商品販売従事者。金額は8時間あたりの額を筆者が8で割ったもの
差は時給にして67円。月20日なら10,720円です。金額だけを見れば無期のほうが高いのですが、この差が出る理由は「同じ仕事で高く払っている」からとは限りません。無期雇用派遣は長く働ける人が選ばれやすく、結果として経験年数の長い人が多く含まれている可能性があります。統計からはそこまで読み取れないので、ここは断定しません。
派遣先が払う額と、自分に入る額の差は約3割
派遣には、派遣先の会社が派遣会社に払う「派遣料金」と、派遣会社から自分に払われる「賃金」の2つの金額があります。この差がマージンです。
出典:厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」表6・表7。いずれも商品販売従事者の1日8時間あたりの平均額
差の中身は、派遣会社の社会保険料負担・有給休暇の原資・教育訓練費・募集費・利益などです。全業務の平均で見ると同じ計算で36.3%になるので、商品販売のマージンはむしろ平均より低いほうです。「アパレルの派遣は中抜きが大きい」という印象は、少なくとも国の集計からは読み取れませんでした。
上がってはいる。ただし下限のほうが速い
商品販売の派遣賃金は、前の年度から上がっています。11,062円から11,372円へ、1日あたり310円。時給に直すとおよそ39円の上昇(2.8%)です。
問題は、同じ時期に下限がもっと速く上がっていることです。最低賃金の全国加重平均は1,055円から1,121円へ、66円上がりました。賃金の伸び(39円)を上回っています。
求人の「時給1,500円」を、3ステップで読む
ここまでの数字を、実際の求人票に当てる手順にします。
- 働く場所の都道府県の最低賃金を引く
上の表から、派遣先(登録する派遣会社ではなく、実際に立つ店舗)の都道府県の額を引きます。東京で時給1,500円なら、1,500 − 1,226 = 274円。これが最低賃金からの上乗せ分です。ここが100円を切っていたら、経験を評価されていない水準だと考えていいと思います。
- 全国平均の1,422円と比べる
次に、商品販売の派遣の全国平均と比べます。1,500円なら平均より78円上。ただし平均には地方も含まれているので、東京の求人なら「平均より少し上」ではなく「ほぼ平均並み」と読むのが実感に近いはずです。
- 月収に直してから、いまの給料と並べる
時給1,500円 × 8時間 × 20日 = 240,000円。ここから社会保険料が引かれ、賞与は原則ありません。正社員の月給と比べるときは、いまの月給に賞与の月割りを足してから並べてください。月給22万円+賞与年2ヶ月なら、実質は月25.7万円相当です。
いまの時給が低いのかどうか、5つで確認する
3つ以上あてはまる人は、条件を見直す段階です
- いまの時給から、働いている県の最低賃金を引くと100円未満になる
- 契約更新のときに時給が上がったことが一度もない
- 1,422円(全国平均)を下回っているが、都市部で働いている
- 販売以外の業務(在庫管理・EC対応・売上分析)も任されているのに時給は同じ
- 同じ店に3年近く入っていて、その先の契約の話が出ていない
→ 3つ以上なら、いまの派遣先で交渉するより、職種の選択肢を先に調べたほうが早く動きます。
アパレル派遣という働き方を、4つの面から
向いている人
- 接客そのものは好きで、続けたい
- 正社員の拘束(異動・休日出勤)を避けたい
- 働く期間を区切って、次の準備に充てたい
- いろいろなブランドの売場を見ておきたい
向いていない人
- 数年かけて年収を上げていきたい
- 賞与や退職金を前提に生活を組んでいる
- 住宅ローンなど、継続した収入の証明が要る
- 役職に就いてマネジメントを経験したい
販売員だったころ、同じ売場に派遣の方が入っていました。仕事の中身はこちらとほとんど同じで、開店前の準備も閉店作業も一緒にやっていました。違ったのは、その人の時給が売場の誰にも見えていなかったことです。あとで聞いて、自分の時給換算とほぼ同じだと知りました。正社員だから高い、派遣だから低い、という単純な話ではないと、そのとき初めて思いました。
この記事で確認できなかったこと
数字を出すときは、出せなかったものも書いておくべきだと思っています。この記事には3つあります。
- 「アパレル業界だけ」の派遣時給は、公的な統計に存在しません
使った区分は国の職業分類でいう「商品販売従事者」で、アパレル以外の小売(食品・家電・雑貨など)も同じ枠に入っています。アパレルだけを取り出した平均ではない、という前提は外せません。
- 都道府県別の派遣時給は、この集計には載っていません
地域別に出ているのは派遣で働く人の数・派遣先の件数・売上高の3つだけで、賃金の地域別は公表されていません。だからこの記事では、地域の話を最低賃金=下限だけで書きました。「名古屋のアパレル派遣の平均時給は○円」といった数字は、公式には確認できません。
- 個別の派遣会社の時給は載せていません
各社の募集時給は公式サイトで確認するしかなく、時期によって変わります。この記事では会社ごとの比較はしていません。
よくある質問
アパレル派遣の時給は全国平均でいくらですか?
都市部で働けば時給は上がりますか?
無期雇用派遣と有期雇用派遣では、どちらが時給が高いですか?
派遣会社に引かれているマージンはどのくらいですか?
派遣の時給を上げるには何をするのが早いですか?
まとめ:ものさしは2本ある
アパレル派遣の時給を判断するときに持っておく数字は2つだけです。働く県の最低賃金(下限)と、商品販売の全国平均1,422円(真ん中)。提示された時給をこの2本に当てれば、その求人が自分の経験を評価しているかどうかが見えます。
そのうえで時給そのものを動かしたいなら、動かす先は地域ではなく職種です。地域で動く幅は最大203円、職種で動く幅は約1,200円。売場で積んだ経験がどの職種につながるのかは、担当していた仕事の中身によって変わります。
アパレルの経験がどこで使えるか診断する 所要1分・登録不要・個人情報の入力なし