※この記事に出てくる時給と賃金の数字は、厚生労働省の公式ページと公開資料(局長通達本文・別添1・別添3・賃金構造基本統計調査の結果表・地域別最低賃金の全国一覧)を実際に開いて、そこに書かれている値と計算方法だけを使って出しています。求人サイトの相場情報やまとめ記事の数字は使っていません。筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在はファッションバイヤー兼古物商として仕入れと買取の仕事をしています。確認日は本文の出典に書きました。
40代であること自体は、派遣の時給の下限を1円も動かしません。動かしているのは、労使協定で選ばれる「何年目の段」です。
派遣の時給には、最低賃金とは別に法律が引いた下限があります。その計算に使われる表には、0年・1年・2年・3年・5年・10年・20年という7つの段しかなく、年齢の欄はありません。東京のアパレル販売なら、いちばん下の段が1,401円、いちばん上が2,542円。同じ仕事でも1,141円ひらきます。どこからその差が出るのかを、公的資料の数字だけで順番に置いていきます。
先に東京の下限の表を見る「40代だから時給が安い」は、少なくとも下限の話ではない
「アパレル 派遣 40代」で調べている人の心配は、だいたい2つに割れます。40代でも仕事があるのかと、40代になったら時給はどうなるのかです。
このうち2つ目は、感覚ではなく数字で答えが出ます。派遣で働くときの時給には法律で決められた下限があって、その下限を計算する式が厚生労働省の通達に書かれています。式は3つの掛け算でできていますが、そのどこにも年齢は入っていません。
出典:厚生労働省 職業安定局長通達「職発0828第5号」(令和8年8月28日/令和9年度適用)第2の1の(1)PDF。2026年9月6日に確認。
だから「40代だから安くされている」という説明は、少なくとも下限の話としては当たりません。当たっているのは、「40代になっても段が上がっていない」のほうです。この2つは似ていますが、打ち手がまったく違います。前者は動かせませんが、後者は契約の前に確かめられます。
販売員だったころ、同じ売場に20年やっている派遣の方がいました。誰よりも商品を知っていて、新人の教育も任されていたのに、時給は数年前に入った人と数十円しか違いませんでした。当時は「そういうものか」と思っていましたが、いま資料を読むと、あの人の時給が上がらなかった理由は年齢でも実力でもなく、契約に書かれていた「何年目相当か」が動いていなかったからです。
派遣の時給には、法律が引いた下限がある
先に仕組みだけ短く押さえます。ここを詳しく知りたい人は、職種名の側から同じ通達を扱った記事があるので、そちらを先に読んでも構いません。
労働者派遣法では、派遣で働く人の待遇の決め方が2通り決められています。実務で主流なのは労使協定方式のほうで、派遣会社が労働組合か労働者の過半数代表と書面で協定を結び、その協定にそって賃金を決めます。
そしてこの方式を選んだ場合、協定に書く賃金は「同じ業務をしている一般の労働者の平均的な賃金(一般賃金)と同等以上」でなければならないと法律で決まっています(労働者派遣法30条の4第1項2号イ)。この一般賃金の額を、厚生労働省の職業安定局長が毎年8月ごろに通達で公表します。
一般賃金の額は、次の3つの掛け算で出します。掛け算の順番も端数の処理も、通達に書いてあるとおりです。
- 職種別の基準値
156区分の職種ごとに決まっている時給。アパレルの店頭なら「販売店員」がこれにあたります。どの職種名で契約するかで下限が変わる話は、こちらの記事にまとめました。
- 能力・経験調整指数
勤続0年を100とした指数。この記事の主題はここです。
- 地域指数
働く場所の都道府県で決まります。東京は110.3(令和9年度適用)。
3つのうち、職種は契約書に書かれるもの、地域は働く場所で自動的に決まるものです。残る真ん中の「何年目か」だけが、はっきりした基準がないまま決まっています。
下限を動かすのは年齢ではなく「何年目の段」。段は7つしかない
能力・経験調整指数は、通達の本文に表そのものが載っています。実物がこれです。
| 適用される年度 | 0年 | 1年 | 2年 | 3年 | 5年 | 10年 | 20年 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 令和8年度(いま適用中) | 100.0 | 113.8 | 121.8 | 124.8 | 133.6 | 142.7 | 177.4 |
| 令和9年度(2027年4月から) | 100.0 | 117.5 | 125.3 | 130.0 | 136.2 | 139.8 | 181.4 |
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出典:厚生労働省 職業安定局長通達「職発0825第1号」(令和7年8月25日/令和8年度適用)PDFおよび「職発0828第5号」(令和8年8月28日/令和9年度適用)PDF、いずれも第2の1の(1)の②。2026年9月6日に確認。
気づいてほしいことが3つあります。
ひとつ目。段は7つしかありません。0年、1年、2年、3年、5年、10年、20年です。4年も7年も15年も、表にはありません。
ふたつ目。年齢の欄がありません。通達はこの指数を「能力及び経験の代理指標」と説明していて、勤続年数別の給与から作ったものだと書いています。40歳の人と25歳の人を区別する仕組みは、この表のどこにもありません。
みっつ目。2027年4月から使われる令和9年度の表では、10年の段だけが下がっています。142.7から139.8へ、2.9ポイントのマイナスです。ほかの段はすべて上がっているなかで、ここだけが逆を向いています。
東京のアパレル販売で計算すると、0年と20年で1,141円ひらく
では実際にいくらになるのかを出します。職種は「販売店員」(職種コード1321)、場所は東京、計算は通達どおり「別添1の額 × 地域指数、1円未満は切り上げ」です。
| 何年目の段か | 令和8年度(適用中)東京 | 令和9年度(2027年4月から)東京 |
|---|---|---|
| 0年 | 1,311 | 1,401 |
| 1年 | 1,491 | 1,646 |
| 2年 | 1,596 | 1,755 |
| 3年 | 1,636 | 1,822 |
| 5年 | 1,751 | 1,909 |
| 10年 | 1,870 | 1,958 |
| 20年 | 2,324 | 2,542 |
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計算元:別添1「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」令和9年度版(Excel)・令和8年度版(Excel)、別添3「職業安定業務統計による地域指数」令和9年度版(Excel/東京110.3)・令和8年度版(Excel/東京111.4)。1円未満の切り上げは通達第2の1の(2)による。2026年9月6日に確認。

時給差に月160時間(1日8時間×20日)を掛けた当サイトの計算です。実際の労働時間で読み替えてください。
いま自分がもらっている時給を、この表のどこかに当ててみてください。それが、いまの契約であなたに当てられている段です。10年やっているのに1,646円なら、契約上は「1年目相当」として扱われている可能性があります。
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ここからが、40代に固有の話です。
表をもう一度見てください。10年の次の段は、いきなり20年です。11年目も、15年目も、19年目も、表の上では10年の段のままです。
アパレルの店頭に20代前半で入った人は、30代前半で10年に届きます。そこから次の段まで、10年かかります。つまり30代後半から40代後半までの10年間、下限は動きません。40代で「時給がずっと同じ」と感じるのは、多くの場合これです。
10年から20年まで段が用意されていないので、その間は下限が上がりません。ただしこれは「下限」の話で、実際の時給を上げてはいけないという意味ではありません。上げる根拠が法律の側から自動では出てこない、というだけです。
そしてもう一点。令和9年度の表で下がったのが、ちょうどこの10年の段でした。金額としては上がりますが、0年からの伸び幅で見ると縮んでいます。
0年からの伸び幅がどう変わるのかを見る
東京の販売店員で計算すると、令和8年度は0年1,311円・10年1,870円で、伸び幅は559円でした。令和9年度は0年1,401円・10年1,958円で、伸び幅は557円です。金額はどちらも上がっていますが、10年やった人の割増し分はほぼ横ばい、比率で見ればわずかに縮んでいます。いっぽう20年の段は令和8年度2,324円から令和9年度2,542円へ218円上がっていて、こちらは伸び幅も広がっています。経験が下限に反映されるのは、10年ではなく20年に届いてからだ、という形がはっきりしてきています。
その「何年目」を決めるのは、あなたの勤続年数ではない
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
「10年働いたから10年の段」と思いたくなりますが、通達はそう書いていません。実際の文はこうです。
出典:厚生労働省 職業安定局長通達「職発0828第5号」(令和9年度適用)第3の2の(2)PDF。2026年9月6日に確認。
読みほどくと、こうなります。
- 段は自動では決まりません
派遣会社が労使協定で「選ぶ」ものです。あなたの実年齢も、あなたの実際の勤続年数も、そのまま段になるわけではありません。
- 判断の材料は「業務の内容と難易度」です
通達が例に挙げているのは年数ではなく、任されている仕事が一般の労働者の何年目に相当するか、という見方です。
- つまり、聞く価値があります
選ぶ側に幅があるということは、根拠を示せば動く余地があるということでもあります。
メーターは「時給の下限をどれだけ動かすか」の大きさを、上の計算結果にもとづいて筆者が整理したものです。点灯の数そのものは公的な指標ではありません。
派遣のまま40代を越えると、賃金はどうなるか
段の話は「いまの契約でいくらまで上げられるか」の話でした。ここでは視点を変えて、雇用形態そのものを続けた場合に何が起きるかを見ます。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査は、正社員と正社員以外を年齢階級ごとに分けて集計しています。男性の所定内給与額(月額・千円)はこうなっています。
| 年齢階級(男) | 正社員・正職員 | 正社員・正職員以外 | 差 |
|---|---|---|---|
| 25〜29歳 | 292.4 | 236.6 | 55.8 |
| 30〜34歳 | 337.0 | 247.9 | 89.1 |
| 35〜39歳 | 374.2 | 247.7 | 126.5 |
| 40〜44歳 | 406.3 | 250.9 | 155.4 |
| 45〜49歳 | 429.7 | 262.8 | 166.9 |
| 50〜54歳 | 449.2 | 254.3 | 194.9 |
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出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」第6-1表「雇用形態、性、年齢階級別賃金」(Excel)。単位は千円、所定内給与額。差は当サイトの計算。2026年9月6日に確認。
30〜34歳から40〜44歳までの10年で、何が起きているかを並べます。
出典:同上(第6-1表)。伸びの計算は当サイト。
ここから読めることは2つです。
ひとつは、40代で仕事が無くなるわけではないということ。正社員以外で働く男性の平均年齢は53.4歳、平均勤続は12.6年です。40代は少数派どころか、この働き方のなかではむしろ若いほうに入ります。「40代だと派遣にも入れない」という心配は、統計の形とは合いません。
もうひとつは、賃金のカーブがほぼ平らだということ。10年で3,000円しか動きません。同じ10年で正社員は69,300円動きます。アパレルの賃金カーブそのものが45歳で止まる話は別の記事に書きましたが、雇用形態別で見ると、そもそも上りはじめてすらいないことになります。
契約の前に、この4つを聞く
ここまでの話を、そのまま質問に変えます。派遣会社の担当者に聞けば答えられる内容です。答えられない会社なら、それ自体が判断材料になります。
- 労使協定方式ですか、派遣先均等・均衡方式ですか
労使協定方式なら、この記事の下限がそのまま効きます。派遣会社はどちらの方式かを公開する義務があるので、答えられないということは基本的にありません。
- 私の契約は、どの職種で登録されていますか
「販売店員」なのか、それ以外なのか。同じ売場の仕事でも職種名で下限が変わります。職種名の選び方はこちらに詳しく書きました。
- 能力・経験調整指数は、何年目の段を当てていますか
この記事の核心です。0年なのか、3年なのか、10年なのか。ここを聞く人はほとんどいませんが、金額としてはいちばん大きく動きます。
- 段が上がるのは、どういうときですか
通達は「業務の内容、難易度等」で選ぶと書いています。何ができるようになれば次の段になるのか、その基準を先に聞いておきます。任される仕事が増えたときに交渉の材料になります。
40代でも派遣が合う人
- 勤務日や時間を自分で決めたい
- 売上責任やシフト管理から離れたい
- 段が上のほうに当てられている(または上げる道筋が示された)
- 並行してやりたいことがある
いま考え直したほうがいい人
- 10年以上やっているのに段が3年以下のまま
- 段を上げる基準を聞いても答えが返ってこない
- 50代までこの働き方を続けるつもりでいる
- 収入を年単位で増やす計画がある
あなたはどちらか、ここで決める
3つ以上あてはまる人は、契約より先に選択肢のほうを見る段階です
- いまの時給が、上の表の「3年」より下にある
- この売場に5年以上いるのに、時給が100円も動いていない
- 段が何年目に当てられているかを聞いたことがない
- 新人の教育や発注を任されているのに、契約は入ったときのままだ
- 50歳になったときの月収を、想像したことがない
→ 3つ以上なら、時給の交渉より先に「自分の経験がどの職種でいくらになるか」を並べて見るほうが早いです。
正社員以外で働く男性の平均年齢は53.4歳です。年齢で下限が下がる仕組みもありません。ただし入るなら、段が何年目に当てられているかを最初に確かめてください。そこを聞かずに入ると、20年目の人と1年目の人が同じ時給、ということが実際に起きます。
まとめ
- 年齢は、派遣の時給の下限を1円も動かさない
下限の計算式は「職種 × 何年目の段 × 地域」で、年齢の欄はありません。
- 動かしているのは「何年目の段」で、段は7つしかない
0年・1年・2年・3年・5年・10年・20年。東京のアパレル販売なら1,401円から2,542円まで、1,141円の幅があります。
- 10年の次の段は20年。40代の大半はこの区間にいる
しかも令和9年度からは、10年の段の指数だけが下がりました。
- 段は自動では決まらない。労使協定で選ばれている
だから契約の前に聞けます。聞かない限り、上がる理由も自動では発生しません。
- 派遣のまま10年進んでも、賃金はほぼ平ら
男性の正社員以外は30代前半から40代前半の10年で3,000円。正社員は69,300円です。
