※この記事で扱う職種の分類と賃金の数字は、すべて厚生労働省が公表している統計表・通達の別添・解説資料を実際に開いて確認したものです。特定の企業・転職サービスから依頼を受けて書いたものではありません。筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在は古物商として買取業を営んでいます。採用側として人を選ぶ立場も、求人票を書く立場も経験しています。
「総務」は、国の求人統計では事務の島のまん中より下。隣の名札「人事」との差は時給で113円あります。
第二新卒で総務を狙うとき、効くのは「総務の求人を探す」ことではなく、その求人票の「総務」が人事寄りなのか、会計寄りなのか、何でも屋なのかを切り分けることです。同じ部署・同じフロアでも、国が付けている値札は職種名ごとに別です。ここを先に見分けられるかどうかで、入ったあとに残るものが変わります。
まず総務の値札を見る「総務」は、国の求人統計では事務の島の下のほう
総務への転職を考えはじめた人が最初にぶつかるのは、「総務って結局いくらもらえる仕事なんだ」という疑問です。ところがこれを調べると、サイトごとにまったく違う金額が出てきます。
そこで、推測の入らない数字をひとつ用意します。厚生労働省は毎年、ハローワークに出された求人の賃金をもとに、職種ごとの時給換算の基準値を公表しています。派遣で働く人の待遇を決めるときに「世の中の相場」として使うことが法律で決まっている数字で、職種名ごとに国が値札を付けている唯一の公式な一覧です。
そこに「総務事務員」という項目があります。
出典:厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」令和9年度適用・別添2「職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額(時給換算)」より筆者が抜き出し
総務事務員の基準値は1,246円。全職業をならした「職業計」の1,333円より87円低い。つまり総務は、求人の世界では平均よりやや安いほうに置かれている職種です。
これは意外に思われるかもしれません。総務は会社になくてはならない部署で、残業も比較的少なく、景気に左右されにくい——だから条件もいいはずだ、と考えがちです。しかし求人賃金は「その仕事がどれだけ大事か」ではなく、その条件で人が採れるかどうかで決まります。総務は未経験から入りたい人が多い職種です。希望者が多ければ、企業はその金額で募集を出せます。安定していることと、賃金が高いことは別の話です。
景気に左右されにくいのは本当です。ただしそれは「下がりにくい」という意味で、「高い」という意味ではありません。求人賃金の基準値は職業計より87円下にあります。安定を取りにいくなら、その対価として賃金の伸びしろを置いてくる、という交換だと理解したうえで決めてください。
同じ事務の島でも、名札が変わると時給で212円動く
ここからが本題です。総務事務員の1,246円という数字は、それ単体ではあまり意味を持ちません。効くのは、隣に何が並んでいるかです。
同じ統計表から、総務の周辺にある事務系の職種だけを抜き出して、安い順に並べてみます。どれも「事務」として一緒くたに語られることの多い仕事です。
| 職種(分類番号) | 基準値 経験0年 | 経験3年 | 総務との差 0年 |
|---|---|---|---|
| 一般事務員(03401) | 1,168 | 1,518 | -78 |
| 受付・案内事務員(03403) | 1,205 | 1,567 | -41 |
| 総務事務員(03301) | 1,246 | 1,620 | — |
| 経理事務員(03803) | 1,282 | 1,667 | +36 |
| 法務・広報・知的財産事務(03501) | 1,349 | 1,754 | +103 |
| 人事事務員(03302) | 1,359 | 1,767 | +113 |
| 企画・調査事務員(03303) | 1,379 | 1,793 | +133 |
| 秘書(03402) | 1,380 | 1,794 | +134 |
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出典:同上・令和9年度適用 別添2(単位:円/時給換算の基準値)。「総務との差」は筆者が計算
いちばん下の一般事務員1,168円から、いちばん上の秘書1,380円まで、212円の開きがあります。1日8時間・月20日の160時間で換算すると、月あたり約3万4千円の差です。これが、ひとくちに「事務」と呼ばれている範囲の中で起きている差です。
そして総務事務員は、この8つのうち下から3番目にいます。
ここで大事なのは、この8つが別々の会社の話ではないということです。中小企業なら同じ部署、大きな会社でも同じフロアの隣の島に全部あります。やっていることは地続きで、机も隣同士。それでも求人票に書かれる職種名が変わると、国の値札は変わります。
事務系の職種が国の分類で何種類あって、それぞれどう違うのかは、別の記事で正社員・派遣の水準差や地域の指数まで含めて整理しています。あわせて読むと、自分がどのあたりを狙えるのかが立体的に見えます。
もう一方の統計には、「総務」という職種が存在しない
ここで、少し気味の悪い事実を出します。
国が職種別の賃金を出している統計は、いまのところ2系統あります。ひとつは前章で使ったハローワークの求人賃金。もうひとつが賃金構造基本統計調査で、こちらは実際に働いている人の賃金を集めたものです。より実態に近い数字として扱われます。
その賃金構造基本統計調査の職種一覧を開くと、「総務」という職種がどこにもありません。
出典:厚生労働省「職種一覧と解説」(賃金構造基本統計調査)より、総務の仕事が割り振られる職種を抜き出し
総務の仕事は、この4つに切り分けられて入っています。そして公式の解説には、どこに何が入るかがはっきり書いてあります。
1251 庶務・人事事務員 ― 総務のいちばん太い部分
解説の「仕事の概要」はこうです。
庶務・文書・株式・株主総会対応などの仕事に従事するもの、採用・教育・給与・福利厚生・労務など人事の仕事に従事するものをいう。
含まれる職種の例として挙げられているのが、総務係事務員・庶務係事務員・人事係事務員・給与係事務員・総務係長・総務担当補佐。つまりこの統計では、総務と人事は同じ箱に入っています。別の職種として分けられていません。
前章のハローワーク側では総務事務員と人事事務員が別の職種として113円の差を付けられていたのに、こちらでは同じ箱です。国の統計どうしで、総務と人事がくっついたり離れたりしている。これが「総務って何をする仕事なのかよく分からない」と言われる正体です。あなたの理解が足りないわけではなく、境目が本当にあいまいなのです。
1257 総合事務員 ― いわゆる「ひとり総務」
もうひとつ、第二新卒がいちばん当たりやすい箱があります。
事務の仕事全般について、特に行うべき仕事の内容が限定されず各種の事務の仕事に従事するものをいう。
「行うべき仕事の内容が限定されず」。これが総合事務員の定義です。そして同じ解説には、除外の規定も添えられています。複数の事務を兼ねていても、やるべき内容が決まっているなら庶務・人事や会計のほうに入れる、と。
逆に言えば、内容が決まっていない事務だけが総合事務員になる。社員数の少ない会社で「総務」として採られ、備品発注も 社会保険の手続きも電話も来客も採用の日程調整もやる——という働き方は、国の分類ではここに入ります。求人票で「総務」と書かれていても、実態は総合事務員というケースは珍しくありません。
公式の「含まれない職種」の指定を見る(境目はここで決まっている)
解説には、まぎれやすい職種をどちらに入れるかが明記されています。
- 1251 庶務・人事事務員に含まれないもの:受付・案内事務員(1254)、秘書(1255)、伝票整理事務員(1261)
- 1257 総合事務員に含まれないもの:総務係事務員(1251)、人事係事務員(1251)
- 1261 会計事務従事者に含まれないもの:レジスター係(1321)、公認会計士(1181)、税理士(1181)、給与係事務員(1251)
最後の1行が実務では効きます。給与計算は「会計」ではなく「総務・人事」側の仕事と国が切り分けている。経理と総務のどちらに乗る仕事なのか迷ったら、この指定が判断の基準になります。
求人票の「総務」を、4つに切り分ける
ここまでで材料がそろいました。あとは求人票を読むだけです。職種名の「総務」は情報量がほぼゼロなので、仕事内容の欄に並んでいる言葉を見て、どの箱なのかを自分で判定します。
- 「株主総会」「文書管理」「規程」「社内規則」「労務」が入っている → 庶務・人事の本流
公式の解説にそのまま載っている言葉です。会社の制度そのものを扱う総務で、総務としては太い本流。人事側に寄せていける位置にいます。
- 「採用」「教育」「給与計算」「社会保険」「福利厚生」が入っている → 人事寄り
同じ箱に入っていますが、ハローワーク側の求人統計では人事事務員として総務より113円上に置かれます。次の転職で「人事」と名乗れるかどうかが変わるので、第二新卒が狙うならここです。
- 「伝票」「経費精算」「請求書」「月次」が主になっている → 会計寄り
会計事務従事者の側です。給与計算だけは総務・人事側に残る、という切り分けを思い出してください。経理として積むなら、資格と実務の組み合わせの話になります。
- 並んでいる業務が5つ以上あって「など」で終わっている → 総合事務員(ひとり総務)
「行うべき仕事の内容が限定されず」に当たります。入りやすさは最も高く、幅広く覚えられます。ただし次に移るとき「何ができる人か」を一言で言えなくなるのがここの弱点です。
とくに4つめは、良い面と悪い面の両方をちゃんと知ってから選んでほしいところです。第二新卒がもっとも通りやすい入口でありながら、3年後にいちばん困る可能性がある入口でもあります。
※入りやすさ・言いやすさは、筆者が採用側として求人票を書き、応募書類を見てきた経験に基づく評価です。賃金の段は本記事で引用した国の基準値の順位に対応させています
3つ以上あてはまる求人は「ひとり総務」です
- 仕事内容の欄に業務が5つ以上並び、最後が「など」で終わっている
- 募集人数が1名で、「欠員補充」と書かれている
- 総務部ではなく「管理部」「総務人事課」「業務部」など複数機能の名前がついている
- 「幅広く経験できます」「何でもやってみたい方」が売り文句になっている
- 社員数が50人以下、または総務の在籍人数が書かれていない
→ 3つ以上なら、入ったあと自分の職種名を自分で決めることになります。入る前に「3年後に何と名乗るか」を決めておいてください。
ここまで読んで、自分がいまどの箱を狙える位置にいるのか判断がつかない場合は、手持ちの経験を先に棚卸ししたほうが早いです。職種ごとの持ち駒を並べて見られるようにしてあります。
第二新卒には、もう一つ入口がある。新卒枠です
職種の切り分けとは別に、第二新卒だけが使える入口の話をします。総務は新卒採用でも募集される職種なので、これが効く場面があります。
厚生労働省は、青少年の雇用の促進等に関する法律にもとづいて、企業が守るべき指針を定めています。学校卒業見込者の採用枠について、指針が求めているのは次の2つです。
出典:厚生労働省「卒業後3年以内の既卒者は、「新卒枠」での応募受付を!」(青少年雇用機会確保指針の案内)/青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)について
努力義務なので、守らない会社を責めることはできません。ただ、どれくらいの会社が実際に開けているのかは、同じ資料に調査結果として出ています。
| 新規学卒者採用枠での既卒者の応募受付状況 | |
|---|---|
| 応募できて、採用に至った | 32% |
| 応募できたが、採用に至らなかった | 38% |
| 応募不可 | 29% |
| 不明 | 1% |
出典:厚生労働省「労働経済動向調査」(2020年8月)。前年度に新規学卒者枠で正社員の募集を行った7,539事業所を100として集計。上記リーフレット掲載の数値。四捨五入のため合計は必ずしも100になりません
応募そのものができた事業所は、32%と38%を足して約7割。応募不可は29%です。新卒枠は既卒者に対して閉じている、というイメージより、実際は開いているほうが多い。
さらに、応募できた事業所について「卒業後どれくらいまで応募できるか」の内訳もあります。上限はないが43%、3年超が4%、2年超〜3年以内が29%。足すと76%が卒業後3年以内の既卒者を受け付ける範囲に入っています。
中途の求人だけを見て「未経験の総務は枠がない」と判断するのは早いです。新卒枠のほうが未経験前提で選考が組まれているため、職種未経験の第二新卒にとっては戦いやすい場合があります。ただし会社ごとに開いているかどうかが違うので、個別の採用ページで「既卒」「卒業後3年以内」の記載を自分で確かめてください。指針は努力義務であって、全社共通のルールではありません。
会社ごとに新卒枠が開いているかどうかは、実際に採用ページを開いて確かめるしかありません。大手で実際に確かめた例を1本書いています。「新卒枠に戻れるつもりで受けると、入口そのものが無かった」というケースです。
いま動いていい人、もう少し置いたほうがいい人
総務は「とりあえず楽そうだから」で選ぶと、いちばん後悔しやすい職種です。賃金が平均より下に置かれていて、しかも何をしてきた人なのかを説明しづらい箱に入る可能性があるからです。逆に、理由があって選ぶなら筋のいい選択になります。
総務に移って効く人
- 人事・労務まで寄せていくつもりがある
- 制度や規程を作る側に興味がある
- いまの仕事で社内調整ばかりしていて、それが苦でない
- 賃金より勤務時間の安定を優先すると決めている
- 総務の在籍人数が複数いる会社を選べている
いま動くと損をしやすい人
- 「営業がきついから事務へ」という逃げ方で選んでいる
- 総務なら残業がないと思っている(繁忙は決算・株主総会・入退社に集中します)
- 3年後に何と名乗るかを決めていない
- いまの会社で社内異動の制度を確認していない
- 年収を上げたい、が第一の目的になっている
求人賃金の基準値は職業計より87円下、同じ島の人事事務員より113円下です。賃金を上げたいなら、総務ではなく人事寄り・企画寄りの名札を取りにいくほうが素直です。総務を選ぶ理由は「安定」と「会社の内側が見える」ことに置いてください。
3年目までにやっておく3つ
最後に、総務に入ると決めた人が入社後に効かせられる手順を置いておきます。順番に意味があります。
- 自分の職種名を、入社3か月で1つ決める
「総務」ではなく「給与・社会保険まわりの総務」「規程と文書管理の総務」のように、狭く言い切れる形にします。ひとり総務で入った場合はとくに重要です。名札がないまま3年経つと、次の求人票で自分がどの職種に当たるのか説明できなくなります。
- 人事側の仕事に、頼まれる前に手を挙げる
採用・教育・給与・福利厚生・労務は、公式の分類で総務と同じ箱に入っています。つまり職種をまたぐ必要なく手を伸ばせる範囲です。ハローワーク側の求人統計では、この名札に変わるだけで基準値が113円上がります。制度が変わるのを待つのではなく、担当が空いたときに取るのがいちばん早い道です。
- やった仕事を「件数」で残す
総務の仕事は成果が数字になりにくく、職務経歴書で最も書きにくい職種です。入退社手続きの年間件数、扱った規程の本数、社会保険の算定基礎の対象人数。数で残しておくと、総合事務員として入った人でも実績を証明できます。あとからさかのぼって数えるのは、まず無理です。
自分の経験がどの職種に振り替えられるのかは、言葉にしてみないと分かりません。持ち駒を並べるところから始めてください。
自分の経験がどの職種に振り替えられるのかは、言葉にしてみないと分かりません。経験の棚卸しから始める(登録不要・所要3分)
