※この記事に出てくる条文・数字は、e-Gov法令検索と厚生労働省の公開資料(労働者派遣法・労働安全衛生法・同施行令・同規則・局長通達本文と別添1/別添3・腰痛予防対策指針・地域別最低賃金の全国一覧)を実際に開いて、そこに書かれている内容だけを使って出しています。求人サイトの相場情報やまとめ記事の数字は使っていません。筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在はファッションバイヤー兼古物商として仕入れと買取の仕事をしています。確認日は本文の出典に書きました。
倉庫へ移っても、時給の下限は上がりません。変わるのは「誰があなたを守るか」のほうです。
東京で計算すると、店頭(販売店員)の下限は1,311円、倉庫側の職種は1,226円〜1,292円。差は19〜85円しかありません。そのかわり、フォークリフト・はい作業・持てる重さ・履物という、店頭には出てこない線が4本引かれます。しかもその4本を守る義務は、あなたを雇っている派遣会社ではなく、就業先の倉庫のほうにあります。条文と公的資料の数字だけで、順番に置いていきます。
先に東京の下限の表を見る「アパレルの倉庫」は、店舗のバックヤードとは別の場所です
「アパレル 倉庫 派遣」で出てくる求人は、大きく2つに分かれます。店舗の裏(バックヤード)と、物流センターです。同じ検索語で出てきますが、働く場所も、契約で選ばれる職種も、危険の種類も違います。
店舗のバックヤード
売場の裏- 在庫管理・品出し・値札付け・棚卸し
- 人が足りない時間帯は売場に呼ばれる
- 扱う荷は1点ずつの商品
物流センター(倉庫)
店舗の外- 入荷検品・ピッキング・梱包・出荷
- 接客の場面が構造的にない
- 扱う荷はケース・パレット単位
この記事が扱うのは右側の物流センターです。接客をまったくやりたくない人が探すべきなのは、こちらのほうになります。左側の店舗バックヤードについては、契約書の職種名で時給の下限が変わる話を別の記事にまとめました。
販売員だったころ、セール前に物流センターから届く段ボールは、店頭に出す前の状態でまとめて積まれていました。あの箱を用意していた人たちが何をしているのかは、正直よく知りませんでした。バックヤードで自分がやっていた「箱を開けて畳んで並べる」の前工程が、まるごと別の場所にあるということです。同じ会社の同じ商品を触っていても、仕事の中身は連続していません。
求人票の「軽作業」を、法律の言葉に置き換える
倉庫の求人票にはたいてい「軽作業」と書いてあります。この言葉は法律用語ではなく、求人側の言い方です。実際にやることが法律のどの線を越えるかは、書いてある言葉ではなく数字で決まります。
倉庫で引かれている線は4本あります。どれも「これ以上なら資格や有資格者の配置が要る」という境目で、政令と規則に数字がそのまま書いてあります。
| 作業 | 線になる数字 | 越えると必要になるもの | 根拠 |
|---|---|---|---|
| フォークリフトの運転 | 最大荷重 1トン以上 | 技能講習(就業制限) | 安衛令20条11号 |
| フォークリフトの運転 | 最大荷重 1トン未満 | 特別教育 | 安衛則36条5号 |
| はい付け・はい崩し | 高さ 2メートル以上 | はい作業主任者の選任 | 安衛令6条12号 |
| 貨車への積卸し | 一の荷 100キログラム以上 | 作業指揮者の選任 | 安衛則420条 |
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出典:e-Gov法令検索労働安全衛生法施行令第6条12号・第20条11号、労働安全衛生規則第36条5号・第420条。2026年9月6日に確認。
「はい」という言葉はふだん使いませんが、条文にはこう書いてあります。
条文の中に「倉庫」が名指しで書かれています。段ボールを2メートルより高く積む、あるいは2メートルより高く積まれたところから崩す。それだけで、その現場には作業主任者を置く義務が生まれます。店頭でこの条文が出てくる場面は、まずありません。
この4本を守るのは、あなたを雇っている派遣会社ではありません
ここが、倉庫の派遣でいちばん誤解されているところだと思います。
派遣で働くと、関係する会社が2つになります。雇っているのは派遣元(派遣会社)で、実際に指示を出すのは派遣先(倉庫)です。どちらが安全の責任を負うのかは、なんとなくで決まっているわけではなく、労働者派遣法45条が労働安全衛生法の条文を一つずつ名指しして割り振っています。

45条3項には、こう並んでいます(列挙の部分だけ抜き出しました)。
読み方はこうです。ここに名前が出てくる条文は、派遣先が「事業者」として責任を負う。出てこないものは、雇い主である派遣元に残ります。
- 危険有害業務の特別教育は派遣先
安衛法59条3項が45条3項に入っています。1トン未満のフォークリフトに乗るなら、特別教育を用意するのは倉庫側です。
- 技能講習が要る業務も派遣先
安衛法61条1項が45条3項に入っています。1トン以上のフォークリフトは、修了者でなければ就かせてはいけません。
- 作業主任者の選任も派遣先
安衛法14条が45条3項に入っています。2メートル以上のはい作業をさせるなら、主任者を置くのは倉庫側です。
- 雇入れ時の安全衛生教育だけは派遣元
安衛法59条1項は、45条のどの項にも出てきません。雇い入れたときの教育は、雇い主である派遣会社の義務のまま残ります。
資格があれば任される範囲が広がるのは事実です。でも、無いから応募できないわけではありません。必要なら用意するのは派遣先の義務だからです。募集要項の「資格不問」を疑う必要はありません。
東京で計算すると、倉庫のほうが下限は低い
次はお金の話です。
派遣で働くとき、時給には最低賃金とは別に、法律が引いた下限があります。派遣会社が労使協定方式を選んでいる場合、協定に書く賃金は「同じ業務をしている一般の労働者の平均的な賃金と同等以上」でなければならず(労働者派遣法30条の4第1項2号イ)、その額を厚生労働省の職業安定局長が毎年通達で公表しています。
この下限は職種ごとに決まっています。そして通達に添えられている職種の一覧を最初から最後まで見ても、「倉庫」「物流」「ピッキング」という名前の職種はありません。倉庫の仕事は、既にある職種のどれかに当てはめ直されます。
東京(地域指数111.4)で、勤続0年のときの下限を計算するとこうなります。掛け算が1回で済む0年だけを出しているのは、途中の丸めで数字がぶれないようにするためです。
| 契約書に書かれうる職種 | 基準値 | 東京・0年の下限 | どこの仕事か |
|---|---|---|---|
| その他の商品販売従事者 | 1,353 | 1,508 | 店頭 |
| 販売店員 | 1,176 | 1,311 | 店頭 |
| その他の運搬従事者 | 1,159 | 1,292 | 倉庫 |
| 他に分類されない運搬・清掃・包装等従事者 | 1,058 | 1,226 | 倉庫 |
| 包装従事者 | 1,010 | 1,226 | 倉庫 |
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出典:厚生労働省 令和8年度適用 職業安定局長通達 別添1「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」(Excel)の基準値に、別添3「職業安定業務統計による地域指数」(Excel)の東京111.4を掛けて、筆者が計算したもの。1円未満は通達本文の定めどおり切り上げ。2026年9月6日に確認。
下の2つが同じ1,226円で止まっているのは、素直に計算すると東京都の最低賃金1,226円を下回ってしまうからです。通達には、そのときの扱いが書いてあります。
出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」および令和7年度地域別最低賃金全国一覧(PDF)。確認日時点で、このページに載っている最新は令和7年度のもの。2026年9月6日に確認。
倉庫側の職種は、店頭の販売店員より基準値が低く設定されています。東京では最低賃金が受け止めるので大きくは開きませんが、上がる方向ではありません。倉庫を選ぶ理由は、金額ではなく接客がないことのほうに置くべきです。
持てる重さには、国が示した目安があります
倉庫の仕事で店頭といちばん違うのは、体にかかる負荷が毎日同じ方向にかかることです。ここについても、厚生労働省が指針を出しています。
体重に対する割合で決まっているので、自分の数字はすぐ出せます。
| 体重 | 人力だけで扱う目安の上限 |
|---|---|
| 60kg | 24kg |
| 70kg | 28kg |
| 80kg | 32kg |
出典:厚生労働省「職場における腰痛予防対策の推進について」(平成25年6月18日 基発0618第1号)別添「職場における腰痛予防対策指針」の重量物取扱い作業の項。掲載元は厚生労働省「腰痛予防対策」。表の数値は指針の40%を筆者が掛けたもの。2026年9月6日に確認。
同じ指針は、倉庫を名指しでこう書いています。
そして健康管理についても、目安が示されています。
指針が挙げている、腰痛の発生要因を見る
指針は腰痛の要因を4つに整理しています。重量物の取扱いなどの動作要因、振動や温度、床・階段の状態といった環境要因、年齢・性・体格・筋力・既往症などの個人的要因、職場の対人ストレスに代表される心理・社会的要因です。倉庫で効いてくるのは主に上の2つですが、指針はこの4つを総合的に見るように書いています。また、腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する人には、作業開始前・作業中・作業終了後などに腰痛予防体操を実施させることも求めています。
靴は、先に買わないでください
倉庫の仕事を決めたあと、多くの人が最初に検索するのが安全靴です。ただし、順番があります。
この条文は労働安全衛生規則の第二編(安全基準)にあります。そして前に見たとおり、労働者派遣法45条3項は安衛法20条〜27条と「当該規定に基づく命令の規定」を派遣先に適用しています。つまり、どんな履物にするかを定めるのは倉庫側です。
- まず、指定があるか聞く
職場見学か契約前の説明のときに「履物の指定はありますか」と聞きます。現場によって、貸与・支給・持参のどれかが決まっています。
- 持参と言われたら、条件を聞く
先芯(つま先の保護)が要るのか、滑りにくさだけでよいのか、色の指定があるのか。ここまで聞いてから買います。
- それから選ぶ
倉庫は1日中歩きます。重さと通気性は、実際に履く時間が長いほど効いてきます。
先に買ってしまうと、指定と違って使えないことがあります。逆に「持参」と言われたときのために、どういうものが選ばれているかだけ見ておくと判断が早くなります。参考までに、軽作業用として流通量が多いタイプを1つ挙げておきます。
店頭から倉庫へ移るのが向いている人、向いていない人
向いている
- 接客そのものが負担になっている
- シフトの土日固定から離れたい
- 体を動かすほうが気が楽
- 商品知識を活かせる場所を探している
向いていない
- 時給を上げることが第一の目的
- 腰・膝に不安がある
- 人と話さないと気が滅入る
- 販売の実績を次の職務経歴に積みたい
このメーターは、本文で確認した公的資料の内容と、筆者が販売職・査定職として現場で見てきた範囲をもとにした整理です。公的な評価ではありません。
契約の前に、この5つを聞く
聞く相手が2つに分かれるのがポイントです。時給の話は派遣元、現場の話は派遣先です。職場見学の場は、派遣先に直接聞ける数少ない機会になります。
- フォークリフトに乗る場面はありますか(派遣先)
あるなら最大荷重が1トン以上か未満かで、技能講習か特別教育かが変わります。用意するのは派遣先の義務です。
- はいの高さは何メートルまでですか(派遣先)
2メートル以上なら、はい作業主任者が選任されているはずです。「誰が主任者ですか」まで聞けると確実です。
- 1人で持つ荷はいちばん重くて何キロですか(派遣先)
自分の体重の40%と比べます。超えるなら、補助機器があるか、2人作業になっているかを続けて聞きます。
- 腰痛の健康診断はありますか(派遣先・派遣元の両方)
指針では配置時と6か月ごとです。義務ではないので「ない」と言われても違法ではありませんが、答え方で現場の姿勢が分かります。
- 労使協定方式ですか。契約書の職種名は何になりますか(派遣元)
時給の下限がどの職種で決まるかは、ここで確定します。職種と時給の関係は、こちらの記事で詳しく書きました。
3つ以上あてはまるなら、倉庫は合う可能性が高いです
- 売場に立つ日が、月曜の朝から憂うつになっている
- 商品の入荷や在庫を触っている時間のほうが好きだった
- ノルマや売上の数字から離れたい
- 腰や膝に、いまのところ不安がない
- 時給が今と同じでも、接客がないほうがいい
→ 3つ以上なら、倉庫の求人を見る価値があります。2つ以下なら、接客から離れる方法は倉庫だけではありません。
倉庫は「接客をしない働き方」の1つですが、唯一ではありません。同じアパレルの中でも、ECの受注や在庫データを扱う仕事は、体の負担が小さいまま接客から離れられます。どれが自分に合うかは、これまでの経験の中身で変わります。
まとめ
- 倉庫と店舗のバックヤードは別の場所
接客が構造的にないのは、物流センターのほうです。
- 「軽作業」の外に出る線は4本ある
フォークリフト1トン、はい2メートル、貨車の荷100キログラム。数字は政令と規則に書いてあります。
- その4本を守るのは派遣先
労働者派遣法45条が、安衛法の条文を名指しで派遣先に割り振っています。資格が無いから応募できない、ではありません。
- 時給の下限は上がらない
東京・勤続0年で、店頭1,311円に対し倉庫側は1,226〜1,292円。倉庫を選ぶ理由は金額ではありません。
- 持てる重さの目安は体重の40%
指針は罰則のある義務ではありませんが、聞いてよい数字です。靴は、指定を聞いてから買います。
