筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在はファッションバイヤーとブランド古着の買取業を営んでいます。この記事に出てくる制度の内容と金額は、すべて厚生労働省のパンフレット・リーフレットの原本と、総務省統計局の調査結果を実際に開いて確認したものです(2026年10月1日に確認)。まとめサイトや他人のブログからの引き写しは入れていません。記事の末尾で自社運営の診断ページを案内しています。
第二新卒が正社員になる入口は2つあります。正社員求人に応募するほかに、非正規で入って転換してもらう道がある。会社には最大80万円が国から入るので、これは遠回りではありません。
いま契約社員・派遣・アルバイトで働いているなら、あなたを正社員にした会社が受け取れるお金があります。制度の名前はキャリアアップ助成金の「正社員化コース」。条件のひとつが「転換後の賃金を3%以上増やすこと」なので、会社がこれを取りに行くなら、あなたの給料も必ず上がります。
自分が対象かどうか見る正社員求人に応募するだけが、正社員になる道ではない
第二新卒の転職記事は、たいてい「正社員求人にどう応募するか」の話で終わります。ただ、実際に正社員が増えている経路はもうひとつあります。すでに非正規で働いている人を、会社が正社員に切り替えるという道です。
厚生労働省は、これをやった会社にお金を出しています。キャリアアップ助成金の「正社員化コース」です。リーフレットには「年間約10万人が正社員化!」と書かれています。
金額は、転換前の雇用形態と会社の規模、そして「重点支援対象者」に当てはまるかどうかで変わります。公式の表をそのまま載せます。
| 対象者・企業規模 | 有期雇用から転換 | 無期雇用から転換 |
|---|---|---|
| 重点支援対象者/中小企業 | 80万円(40万×2期) | 40万円(20万×2期) |
| 重点支援対象者/大企業 | 60万円(30万×2期) | 30万円(15万×2期) |
| 上記以外/中小企業 | 40万円(40万×1期) | 20万円(20万×1期) |
| 上記以外/大企業 | 30万円(30万×1期) | 15万円(15万×1期) |
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出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金(正社員化コース)のご案内」(令和8年4月8日版)および「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)」P14(2026年10月1日に確認)
いちばん上の段と、下から2番目の段を比べてください。同じ中小企業で、同じ有期雇用からの転換なのに、重点支援対象者かどうかで40万円と80万円に分かれます。ここが、この記事でいちばん大事なところです。
会社の側に、あなたを正社員にする金銭的な理由があります。しかも助成金を受け取るには、あなたの賃金を上げることが条件になっています。正社員求人に応募し続けて半年が過ぎているなら、入口をもうひとつ増やしたほうが早いことがあります。
80万円の枠に入れるのは誰か。条件はa・b・cの3つ
「重点支援対象者」はパンフレットで次のように定義されています。a・b・cのどれかひとつに当てはまれば対象です。
| 区分 | 条件 | 第二新卒に当てはまるか |
|---|---|---|
| a | 雇入れから3年以上の有期雇用労働者 | 当てはまりにくい(3年かかる) |
| b | 雇入れから3年未満で、①過去5年間に正社員だった期間が合計1年以下、かつ②過去1年間に正社員として雇用されていない | 前職が1年以内なら入る |
| c | 派遣労働者(派遣先で正社員として直接雇用する場合)、母子家庭の母等または父子家庭の父、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者 | 派遣で働いていれば、前職の長さに関係なく入る |
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第二新卒にとっての分かれ目は、前の会社で正社員として働いた期間が1年を超えているかどうかです。1年以下ならbの①を満たします。2年・3年働いていた人は①で外れます。
「直近1年に正社員だった人」でも、外れないことがある
bの②は「過去1年間に正社員として雇用されていないこと」です。これだけ読むと、先月まで正社員だった第二新卒は全員アウトに見えます。ところが申請書類(様式第3号別添様式1-5)には、こう書かれています。
つまり、辞め方によっては直前まで正社員だった人も②を満たします。会社都合で辞めた人、正当な理由のある自己都合で辞めた人は、ここで落ちません。
派遣で働いているなら、前職の長さに関係なく最高額の枠に入る
cの条件には、前職が何年だったかという話が出てきません。派遣労働者を派遣先が正社員として直接雇用する場合は、それだけで重点支援対象者です。
これは、前の会社に2年・3年いた第二新卒にとって大きい違いになります。bのルートは①で外れますが、cのルートなら入れます。
この道の良いところ
- 前職の正社員期間が何年でも、重点支援対象者になる
- 働いてみてから決められる。会社も、見てから採用を決められる
- 勤務地限定・職務限定・短時間正社員への転換も、正社員への転換として扱われる
この道の弱いところ
- 派遣先が直接雇用するとは限らない。制度があるだけでは約束にならない
- 転換されるまでは非正規のままで、その間の収入と扱いは非正規のもの
- 助成金は会社に入るお金で、あなたに直接振り込まれるものではない
会社が助成金を取りに行くなら、あなたの賃金は必ず3%以上上がる
助成金は、転換すればすぐ出るものではありません。会社が受け取るには3つの条件を満たす必要があります。
- キャリアアップ計画を出しておく
正社員に転換する前日までに、会社が計画を作って提出していること。転換してから慌てて出すことはできません。
- 就業規則などに制度を書いておく
正社員に転換する制度が、就業規則または労働協約に規定されていること。
- 転換後6か月の賃金を、転換前6か月より3%以上増やす
これを満たしていないと、会社は助成金を受け取れません。
3つ目に注目してください。会社がこの助成金を取りに行く以上、あなたの賃金は3%以上上がります。上げなければ会社が損をするからです。「正社員にはするけど給料は据え置き」という転換は、助成金の条件を満たしません。
支給は2回に分かれます。重点支援対象者だけが2回目を申請できる仕組みです。

会社から見ると、あなたを正社員にして1年続けてもらえると80万円になります。半年でやめられると40万円で終わります。定着してもらうことに値段が付いている設計だと読めます。
「正社員」と書いてあっても正社員とは限らない。国の定義は5つ
ここからは、転職活動そのものに効く話です。求人票に「正社員」と書いてあることと、制度の上で正社員であることは別です。パンフレットには正規雇用労働者の定義が5つ並んでいます。
この5つすべてに当てはまって、はじめて「正規雇用労働者」です
- 期間の定めのない労働契約を結んでいる
- 派遣労働者として雇用されている者ではない
- 同じ会社の通常の労働者と比べて、勤務地または職務が限定されていない
- 所定労働時間が、同じ会社の通常の労働者と同じである
- 就業規則などに、長期雇用を前提とした「賞与または退職金」の制度と「昇給」が規定され、それが自分に適用されている
→ 5つ目で落ちる求人があります。労働条件通知書と就業規則の、賞与と昇給の書き方を見てください。
賞与は、同じことを言っていても書き方で結論が変わる
パンフレットには、就業規則の文言の例が「対象になり得る/対象外」で並べて書かれています。これがそのまま、求人を見分ける物差しになります。
| 項目 | 就業規則の書き方 | 国の扱い |
|---|---|---|
| 賞与 | 賞与は原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある | 対象になり得る |
| 賞与 | 賞与は支給しない。ただし、業績によっては支給することがある | 対象外 |
| 賞与 | 賞与の支給は、会社業績による | 対象外 |
| 昇給 | 昇給は勤務成績その他が良好な労働者について、毎年○月○日をもって行う(業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は行わないことがある) | 対象になり得る |
| 昇給 | 会社が必要と判断した場合には、会社は、賃金の昇降給その他の改定を行う | 対象外 |
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出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)」P17「正規雇用労働者の定義と対象となる労働者要件」(2026年10月1日に確認)
違いは原則がどちらに置かれているかです。「原則は出す。業績次第で出ないことがある」は対象になり得ますが、「原則は出さない。業績次第で出ることがある」は対象外になります。昇給も同じで、会社の裁量だけで決まる書き方は、客観的な基準とはみなされません。
これは助成金の審査基準なので、そのまま労働基準法の話になるわけではありません。ただ国がどこで線を引いているかが分かるので、求人票と就業規則を読むときの基準として使えます。
試用期間が付いているときの扱い
正社員転換のときに「試用期間あり」として雇用契約書を受け取った場合、試用期間中は転換が完了したとはみなされません。試用期間が終わった日の翌日に転換が完了したものとして、賃金の上昇要件や申請期間が数えられます。パンフレットには、試用期間は転換前のうちに設けるべきもので、正社員転換後に設けることのないよう留意、とも書かれています。
「多様な正社員」でも正社員への転換として扱われる
勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれかに転換した場合も、正規雇用労働者へ転換したものとみなされます。会社がこの制度を新たに作って転換した場合は、1事業所あたり1回だけ40万円(大企業30万円)の加算もあります。ただし上の5つの定義のうち「勤務地または職務が限定されていない」からは外れる働き方なので、同じ「正社員」でも中身が違う点は理解しておいてください。
転換を本当にやっている会社は、無料の公式サイトで見分けられる
「正社員登用制度あり」と書いてある求人は山ほどあります。制度があることと、実際に転換した人がいることは別です。
厚生労働省が運営している職場情報総合サイト「しょくばらぼ」で、ここを確かめられます。
検索条件の「その他検索条件」に正社員転換制度有というチェックがあります。これを付けると、制度を持っている会社に絞り込めます。さらに、検索結果に表示する項目として次のものを選べます。
- 正社員転換制度
制度があるかどうか。
- 職種・雇用形態の転換実績(男女別)
制度があるだけか、実際に転換した人がいるか。ここがいちばん効きます。
- 多様な正社員制度
勤務地限定などの区分があるか。
- 中途採用比率
新卒以外をどれだけ採っている会社か。
- 中途採用・経験者採用の定着率
入った人が残っているか。
門は閉じていません。数字で確かめておく
「正社員になれないのでは」と思っている人ほど、全体の数字を見ておいたほうがいいです。総務省統計局の労働力調査(詳細集計)2025年平均から3つ引きます。
出典:総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均結果の概要」(2026年3月31日掲載/2026年10月1日に確認)
非正規で働く男性678万人のうち、正規の仕事が見つからないからという理由の人は85万人で、男性全体の13.0%です。この数は比較できる2014年以降、12年連続で減り続けています。男性の非正規でいちばん多い理由は「自分の都合のよい時間に働きたいから」で228万人(35.0%)でした。
望まずに非正規でいる人は、毎年減っています。門が閉じているから正社員になれないのではありません。入口を1つしか使っていないことのほうが、たいていは効いています。
- 自分がa・b・cのどれに当てはまるか決める
前職の正社員期間が1年以下ならb。派遣で働いているならc。どちらも違うなら、重点支援対象者ではない前提で考えます。
- 辞め方を確認する
会社都合、または正当な理由のある自己都合で辞めていれば、直近1年に正社員だった人もbの②を満たせます。離職票の離職理由を見てください。
- 志望先をしょくばらぼで引く
「正社員転換制度有」で絞り、転換実績の欄まで見ます。
- 内定が出たら、賞与と昇給の書き方を読む
労働条件通知書と就業規則。「原則として支給する」か「支給しない」か。ここで正社員かどうかが分かれます。
