※筆者はアパレル販売員・買取査定員としての勤務経験があり、現在はファッションバイヤー・古物商として活動しています。この記事の制度・手数料・義務に関する記述は、すべて厚生労働省の公式ページを実際に開いて確認したものです(情報時点 2026年9月)。個別の事案は都道府県労働局の需給調整事業担当課室が相談窓口です。
「ヘッドハンティング」は名乗りでは決まらない。決まるのは国の許可のほう。
アパレルで5年10年やっていると、DMやスカウトメールで「ヘッドハンティングです」という連絡が来ます。これが本物かどうかは、相手の肩書きや文章のうまさでは判断できません。判断できるのは「その事業者が何をしているか」だけです。元アパレル販売員で、いまは買取と古物商をしている筆者が、厚生労働省の公式ページで確認できる事実だけを使って、見分け方を3つに絞ります。
3つの見分け方を見るその連絡は、3つのどれかから来ている
スカウトや引き抜きの連絡は、送り手の名乗りが何であれ、制度のうえでは3つのどれかです。そしてどれから来たかで、相手が守らなければならないルールが変わります。ここを取り違えると、「守ってもらえるはずのこと」を自分から手放すことになります。

厚生労働省は、民間の人材サービスを大きく「職業紹介事業」と「募集情報等提供事業」の2つに分けています。ここに「企業が自分で声をかける直接採用」を足した3つが、連絡の出どころのすべてです。
| 連絡元 | していること | 国の関与 | あなたの負担 |
|---|---|---|---|
| 職業紹介事業者 | 求人と求職の両方の申込みを受け、雇用関係の成立をあっせんする | 許可制(有料は新規3年・更新5年) | 原則無料 |
| 募集情報等提供事業者 | 求人情報を載せる、または登録情報を企業に提供する。あっせんはしない | あなたの情報を集めて行うものは届出制 | 基本的に無料 |
| 企業の直接採用 | 仲介がいない。企業が直接声をかける | 仲介事業者がいないので許可・届出は出てこない | なし |
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「情報を出しているだけ」でも、職業紹介になることがある
ここがいちばん誤解されている部分です。厚生労働省は、次のどれかを行っている場合は職業紹介事業の許可等が必要だと区分を示しています。コンピュータが自動でやっているかどうかは問いません。
- 選別して提供している
選んだ提供相手にだけ渡す、または選んだ情報だけを渡す。
- 加工して提供している
提供する相手に応じて、情報を加工して渡す。
- やり取りを加工して中継している
あなたと企業の意思疎通を中継するときに、その中身に加工を加える。
「ヘッドハンティング」という肩書きに、法律上の意味はない
「エグゼクティブサーチ」「ヘッドハンター」「特別招聘」——どう名乗るかは自由です。制度のうえで意味を持つのは、あっせんをしているか、そして許可を受けているかだけです。
厚生労働省の定義では、「職業紹介」とは求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんすることです。この行為をする事業者は、国の許可を受けなければなりません。
おもしろいのは、有料職業紹介事業には「やってはいけない職業」があることです。港湾運送業務に就く職業と、建設業務に就く職業については、有料での職業紹介は行えません。逆に言えば、アパレル・ファッションの職種はこの制限の外にあるので、有料の職業紹介が普通に成り立つ分野です。
また、無料の職業紹介にも許可が要ります(有効期間5年)。届出だけで済むのは、学校等が学生生徒等を対象に行うもの、農協・商工会議所・商工会などが構成員等を対象に行うもの、地方公共団体が自らの施策に附帯して行うものに限られます。「無料だから許可は要らない」ということはありません。
連絡が来たら確かめる3つ
返信する前に、この順番で見ます。3つとも数分で終わります。
- どの事業者なのかを、相手に書かせる
職業紹介事業者なのか、求人メディア・人材データベース(募集情報等提供事業者)なのか、企業の直接採用なのか。職業紹介事業者なら許可番号があります。名乗りではなく区分を聞くのがコツです。
- 最初の接触までに労働条件が明示されたかを見る
職業紹介事業者は、あなたと最初に接触する時点までに、書面の交付や電子メール等で、従事すべき業務内容に関する事項等を明示することとされています。内容に変更があった場合は、変更箇所が分かるように再度明示する必要があります。「詳しくは面談で」と言って何も出さないのは、この順番が逆です。
- 人材サービス総合サイトで実績を見る
厚生労働省が運営するサイトで、事業者ごとの情報が確認できます。次の項目が見られるので、面談に行く前に開いておきます。
人材サービス総合サイトで確認できること
- その事業者の紹介により就職した人の数
- そのうち、6か月以内に離職した人の数
- 手数料に関する事項(手数料率の実績・手数料表)
- 返戻金制度(手数料を返金する制度)の有無と内容
- 「医療・介護・保育分野適正事業者認定制度」の認定取得状況
→ 見るべきは2つめです。紹介した人がすぐ辞めているかどうかは、その事業者が「決めさせる」ことを優先しているかの手がかりになります。
なお、一定の基準を満たした事業者を国が認定する制度もあります。適正有料職業紹介事業者認定制度・職業紹介優良事業者認定制度・優良募集情報等提供事業者認定制度の3つで、認定を受けた事業者は人材サービス総合サイトで検索できます。
お金は企業が払う。あなたが払う話が出たらおかしい
ここは覚えておくと強い部分です。職業紹介事業者は国による許可制で、手数料額等も国に届出をしています。そして基本的に、求職者であるあなたは無料です。利用料金や手数料を払うのは求人企業のほうです。求人メディアや人材データベース(募集情報等提供事業者)も、求人企業が掲載料金や成功報酬を払う仕組みなので、基本的に求職者は無料で使えます。
手数料には「上限制」と「届出制」があり、上限制を採用している有料職業紹介事業者の場合、最高額は次のとおりに定められています(企業が払う額の上限です)。
| 手数料の種類 | 最高額 | 免税事業者の場合 |
|---|---|---|
| 受付手数料 | 1件 710円 | 660円 |
| 紹介手数料 | 賃金額の11.0% | 10.3% |
| 紹介手数料(無期雇用で6か月超) | 11.0% または 14.8% | 10.3% または 13.9% |
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この数字を知っておくと、ひとつ構造が見えます。紹介手数料は、あなたの賃金に比例します。だから紹介の仕組みは、あなたの年収が上がるほうに働きます。これは読者にとって悪いことではありません。ただし「早く決めさせたい」という力も同時にかかるので、次の項目が効いてきます。
なお、あなたの就職に求人者が支払う手数料は手数料表に記載の範囲内で個別の契約ごとに決まり、早期に離職した際には手数料の一部を求人者に返金する場合があります。職業紹介事業者は「求人者が紹介事業者に支払う手数料に関する事項」をあなたに明示しなければなりません。聞いていい話です。
これはルール違反。覚えておく5つ
厚生労働省が求職者向けに示しているルールから、アパレルで実際に起きやすいものを5つ選びました。
- お祝い金で応募を勧めるのはできない
サービスの利用勧奨は、お祝い金等の金銭の提供ではなく、サービスの質を向上させ、それを訴求することによって行うこととされています。「入社したら〇万円」は、この考え方の外にあります。
- 紹介してくれた会社は、2年間あなたに転職を勧められない
就職時にその就職先を紹介した職業紹介事業者は、2年間、あなたに転職の勧奨ができません(禁止されているのは無期雇用契約で就職した場合に限ります)。前に紹介してもらった同じ会社から「次も紹介します」と来たら、まずこれを思い出してください。
- 派遣なら「派遣」と明示される
派遣労働者として雇い入れようとするときは、その旨を明示することとされています。雇用契約とフリーランス契約の募集が混在する場合も、どちらか分かるように表示することとされています。フリーランス契約は雇用労働者に対する法律の保護の対象外になるので、ここは必ず確かめます。
- 求人情報は正確・最新に保たれる
求人情報・求職者情報は、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確・最新の内容に保つ措置を講じることとされています。自分が登録した情報を最新にしておくことも、同じくらい大切です。
- 退職日は、紹介会社が決めるものではない
無期雇用なら2週間前までに使用者に申し出れば退職できます。有期雇用でも、やむを得ない事由がある場合は契約期間の途中でも退職できます。いずれにしても第三者からの指示に従う必要はありません。
乗るか、見送るか
話を聞いていい連絡
- どの事業者かを聞いたら、区分と許可番号がすぐ返ってきた
- 最初の連絡の時点で、業務内容が書面かメールで示された
- 人材サービス総合サイトで実績と手数料表が確認できた
- 派遣か直接雇用か、雇用かフリーランスかが明記されている
いったん止める連絡
- 事業者の区分を聞いても答えず、肩書きの話に戻る
- 条件は面談で話すと言い、何も書面で出てこない
- お祝い金や紹介料を先に提示してくる
- あなたが費用を払う前提になっている
- 退職日や返信期限を、あなたの代わりに決めようとする
アパレルで声がかかりやすいのは、売上の数字そのものより「引き継げるもの」を持っている人です。顧客名簿を持ち出す話ではありません。どの客層に何が売れるかを言葉にできる人、在庫を動かす判断を自分でやってきた人。査定と仕入れに回ってから、この差がいちばんはっきり見えるようになりました。連絡が来たとき、まず確かめるのは相手の肩書きではなく、自分が何を持っているかのほうです。
そのうえで、いま自分の職種と経験がどのくらいの条件で動けるのかは、連絡が来てから考えるより先に測っておいたほうがいいです。相手の提示額が高いのか安いのかは、自分の相場を知らないと判断できません。
よくある質問
「ヘッドハンティング」と「転職エージェント」は違うものですか?
スカウトの連絡で、こちらがお金を請求されることはありますか?
前に紹介してもらった会社から、また転職を勧められました。問題ないのですか?
退職日を紹介会社から指定されました。従う必要がありますか?
出典:厚生労働省「職業紹介事業制度の概要」/「民間人材サービス事業者を利用する求職者の皆さまへ」/「紹介手数料の最高額の改正について」/「求人情報・求職者情報の提供(募集情報等提供)と職業紹介の許可等が必要な場合の区分」(いずれも2026年9月12日に確認)
