この記事に出てくる法律・告示・通達は、e-Gov法令検索と厚生労働省の公開資料を実際に開いて、そこに書かれている文言だけを使っています。求人サイトの説明や体験談は使っていません。筆者は元アパレル販売員で、いまはファッションバイヤー兼古物商として仕入れと買取をしています。確認日は本文の出典に書きました。
「販売代行」は仕事の呼び名で、契約の形は3つに分かれます。どれかで、時給の下限が変わります。
派遣なら東京で1,311円、請負なら最低賃金の1,226円、個人の業務委託なら下限そのものがありません。同じ売場に立って同じ服を売っていても、契約書の形で85円以上の差が出ます。
3つの形を見分ける販売代行とは、ブランドの売場を別の会社が引き受けること
アパレルの販売代行は、ブランドが自分で人を雇わずに、売場の運営を専門の会社に任せる形です。百貨店の催事、ポップアップ、繁忙期の応援、ときには常設の店舗ごと任されることもあります。
売っているのはブランドの商品で、着ている服もブランドのもの。お客さんから見れば、そこに立っているのはブランドの店員です。違うのは、その人に給料を払っているのが誰かと、その人に指示を出す権利が誰にあるかだけです。そしてこの2つが、契約の形を決めています。
契約の形は3つ。時給の下限が全部違う
| ① 派遣 | ② 請負・業務委託(会社が受ける) | ③ 業務委託(個人が受ける) | |
|---|---|---|---|
| 雇い主 | 販売代行会社 | 販売代行会社 | いない(自分が事業者) |
| 指示を出せるのは | ブランド側 | 販売代行会社だけ | — |
| 時給の下限 | 1,311円 | 1,226円 | 無い |
| 残業代 | 出る | 出る | 出ない |
| 雇用保険・社会保険 | 条件を満たせば入る | 条件を満たせば入る | 入らない |
| もらう書類 | 就業条件明示書 | 労働条件通知書 | 業務委託の明示書面 |
下限の根拠:①は労働者派遣法30条の4の労使協定方式による一般賃金で、厚生労働省 令和8年度適用 局長通達 別添1の「販売店員」基準値1,176円に、別添3の東京の地域指数111.4と勤続0年の能力・経験調整指数100.0を掛け、1円未満を切り上げた額(mhlw.go.jp)。②は最低賃金法による東京都の地域別最低賃金1,226円(令和7年10月3日発効/全国一覧)。③は労働者ではないため最低賃金法が適用されない。2026年9月5日に確認。
①と②の差は85円です。月160時間なら13,600円、年間で16万円を超えます。同じ店で同じ時間立っていても、契約の形が違うだけでこれだけ変わります。
自分がどれなのかは、もらった書類で分かる
求人票には「販売代行」としか書いていないことが多い。判別は書類でします。
- 「就業条件明示書」があれば派遣
派遣される先の会社名、就業場所、指揮命令者の氏名、派遣期間が書かれた紙です。労働者派遣法34条で、派遣元が労働者派遣をするときに必ず明示することになっています。これが出てくるなら①です。
- 労働条件通知書だけで、派遣先の記載が無ければ請負
雇い主は販売代行会社で、あなたはその会社の社員として、会社が請け負った売場に出ます。ブランドは「発注者」であって、あなたの雇い主ではありません。
- 「業務委託契約書」に自分の名前が事業者として書かれていたら③
雇用契約ではありません。報酬は給与ではなく報酬で、源泉徴収も社会保険も違う扱いになります。
請負なのに、ブランドが直接指示していたら偽装請負
②でいちばん問題になるのがここです。請負である以上、あなたに指示を出せるのは販売代行会社だけです。ブランドの店長やスーパーバイザーが直接あなたに指示を出したら、その時点で実態は派遣になります。名目は請負なのに中身が派遣、これが偽装請負です。
線引きの基準は、1986年に労働省告示として出され、いまも生きています。第2条にすべて書かれているので、そのまま並べます。
| 区分 | 告示が求めていること |
|---|---|
| 一号 労働力を自ら直接利用している | イ 業務の遂行方法に関する指示、業務の遂行に関する評価を自ら行う |
| ロ 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇に関する指示、時間外・休日労働の指示を自ら行う(単なる把握は除く) | |
| ハ 服務上の規律に関する指示、労働者の配置の決定・変更を自ら行う | |
| 二号 独立して処理している | イ 業務の処理に要する資金を、すべて自らの責任で調達し支弁する |
| ロ 民法・商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負う | |
| ハ 機械・設備・器材・材料を自ら調達するか、自ら行う企画または専門的な技術・経験に基づいて業務を処理する(=単に肉体的な労働力を提供するだけではない) |
出典:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号、最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号)第2条(PDF)。厚生労働省「37号告示関係疑義応答集」のページに掲載(mhlw.go.jp)。2026年9月5日に確認。
「いずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする」という書き方です。6つのうち1つでも欠けたら、請負ではなく派遣として扱われます。
どこまでがセーフか、国が具体例を出している
厚生労働省は、この告示について疑義応答集を出しています。売場での場面に置き換えられるものを4つ引きます。
これは偽装請負にならない
- 業務に関係のない日常的な会話。「発注者が請負労働者と、業務に関係のない日常的な会話をしても、発注者が請負労働者に対して、指揮命令を行ったことにはならない」
- 会社どうしのクレーム対応。発注者が請負事業主に対して作業工程の見直しを要求するのは「業務請負契約の当事者間で行われるもの」であって指揮命令ではない
- 作業スペースが分かれていないこと自体。パーテーションで区切っていなくても、独立して処理する要件が満たされていれば問題にならない
これは偽装請負になる
- 発注者が直接、労働者に指示すること。「発注者が直接、請負労働者に作業工程の変更を指示したり……した場合は、直接の指揮命令に該当することから偽装請負と判断される」
- 売場に1人しかいない状態で、その人が管理責任者を兼ねること。「請負作業場に、作業者が1人しかいない場合で当該作業者が管理責任者を兼任している場合、実態的には発注者から管理責任者への注文が、発注者から請負労働者への指揮命令となることから、偽装請負と判断される」
出典:厚生労働省「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集」問1・問2・問4・問5(PDF)。2026年9月5日に確認。
アパレルの売場で起きやすい3つの場面
- ブランドの店長からシフトの指示が来る
「明日は10時から入って」。告示の一号ロは、始業・終業の時刻や休日の指示を請負事業主が自ら行うことを求めています。発注者から直接来た時点で外れます。
- 朝礼に参加させられ、その日の売り方を指示される
一号イの「業務の遂行方法に関する指示」です。ブランド共通の商品知識を共有する場なのか、その日の動き方の指示なのかで意味が変わります。
- 人が足りない日に、ブランドの社員と混ざって同じシフトに入る
混在自体は問題になりませんが、そこで発注者の社員が指示を出す関係になっていれば別です。
偽装請負だったとき、法律はどう動くか
労働者派遣法40条の6に「労働契約申込みみなし制度」があります。派遣を受け入れる側が違法な受け入れをした場合、その時点で、その人に対して労働契約を申し込んだものとみなされるという制度です。5つの号のうち5号が偽装請負に当たります。
五 この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第二十六条第一項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。
出典:労働者派遣法(昭和60年法律第88号)第40条の6第1項5号(e-Gov法令検索)。2026年9月5日に確認。
ただし条文には「適用を免れる目的で」と書かれています。うっかり偽装請負になっていた、という程度では当たりません。同項のただし書にも「その行つた行為が……該当することを知らず、かつ、知らなかつたことにつき過失がなかつたときは、この限りでない」とあります。制度はあるが、自動的に働くものではないと理解しておくのが正確です。
③の個人業務委託だけは、性質がまったく違う
3つ目の形、個人で業務委託を受ける場合は、ここまでの話がまるごと当てはまりません。あなたは労働者ではなく事業者です。最低賃金も、残業代も、有給休暇も、労災も、雇用保険もありません。
その代わり、2024年11月からフリーランス保護のための法律が動いています。正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。
| 条文 | 決まっていること |
|---|---|
| 3条 | 業務委託をしたら直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面か電磁的方法で明示しなければならない |
| 4条 | 報酬の支払期日は、役務の提供を受けた日から60日以内で、かつできる限り短い期間内に定めなければならない |
出典:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第3条・第4条(e-Gov法令検索)。2026年9月5日に確認。
そして、契約書の名前が「業務委託」でも、働き方の実態が労働者なら労働者として扱われます。時間も場所も業務のやり方も相手が決めていて、断る自由が実質的にないなら、それは雇用です。名前ではなく実態で判断されるという点は、偽装請負の話と同じ構造です。
販売代行の求人に応募する前に確かめる5つ
- 契約は派遣か、請負か、業務委託か。求人票に書いていなければ、応募の段階で聞いていい
- 派遣なら、労使協定方式か派遣先均等・均衡方式か。労使協定方式なら職種別の下限が効く
- 派遣で労使協定方式なら、職種は何で協定されているか。販売店員か、それ以外か
- 請負なら、売場での指示は誰から来るのか。販売代行会社の管理責任者が誰で、その人はどこにいるのか
- 1人で売場に立つ日があるか。あるなら、そのときの管理責任者は誰か
4つ目と5つ目は、答えにくそうな質問に見えるかもしれません。ですが体制がきちんとしている会社なら即答できます。答えが曖昧な会社は、体制そのものが曖昧だということです。
下限が85円違うことの、その先
ここまで見てきたとおり、販売代行で受け取る金額を決めているのは、能力でも売上でもなく契約の形です。そして契約の形は、応募する前にしか選べません。
もう一段さかのぼると、派遣を選んだ場合でも下限を決めているのは職種です。同じ売場の仕事でも「販売店員」で協定されているのか、事務系の職種で協定されているのかで、下限がさらに数百円動きます。その仕組みはアパレルのバックヤード派遣は、契約書の職種名で時給の下限が変わるで詳しく書きました。
まとめ
- 「販売代行」は仕事の呼び名で、契約の形は派遣・請負・個人業務委託の3つに分かれる
- 時給の下限は東京で派遣1,311円/請負1,226円/個人業務委託は下限なし
- 請負なのにブランド側が直接指示していたら偽装請負。判断基準は37号告示の6項目
- 1人で立つ売場でその人が管理責任者を兼ねる形は、国が疑義応答集で名指ししている典型例
- 個人の業務委託は労働者ではないので、最低賃金も残業代も適用されない。ただし実態が労働者なら労働者として扱われる
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