※この記事に出てくる金額は、すべて厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」の原表(図表のExcel)を実際に開いて書き写したものです。特定の転職サービスを紹介する記事ではないため、事業者へのリンクはありません。筆者は新卒で入ったアパレル会社を8ヶ月で退職し、ブランド古着のECベンチャー、買取査定員を経て、いまは古物商として独立しています。業種を2回変えた側の立場で書いています(情報の時点は本文末尾)。
異業種に移って失うのは勤続年数だけ。勤続1〜2年なら、その値段は月11,800円。
「未経験の業界に行ったら、いままでが無駄になる」と思って止まっている人へ。国の統計で確かめると、業種を変えて消えるのは勤続年数という一点だけで、その値段は捨てる勤続の長さで決まります。第二新卒は、その値段が人生でいちばん安い時期です。そして移る先の会社の規模を1段上げれば、そのマイナスは初日で消えます。
勤続を捨てる値段を見る次のうち3つ以上あてはまるなら、この記事の対象です
- 新卒で入った会社に1〜3年いて、辞めた/辞めるつもり
- 次は「同じ業界の別の会社」ではなく、業界ごと変えたいと思っている
- 未経験の業界に行くと給料が下がる、と何となく思っている
- いまの会社で覚えたことが、全部むだになる気がしている
- 行きたい業界の候補が3つ以上あって、絞れていない
→ 3つ以上なら、先に決めるのは業界名ではなく「勤続を捨てる値段が、いまいくらか」です。
異業種に移ると、何が消えて何が残るのか
「異業種転職=リセット」と言われますが、実際にゼロに戻るものはそれほど多くありません。何が消えて何が残るのかを先に分けておくと、業界選びで迷う時間が一気に短くなります。
業種を変えても残るもの
- 職種としてやってきた作業(接客・数字の管理・段取り)
- 社会人として働いた年数そのもの
- 資格・免許・語学
- 雇用保険の加入期間(転職しても通算される)
- 厚生年金の加入期間
業種を変えると消えるもの
- いまの会社での勤続年数
- 勤続に紐づく手当・昇給の順番待ち
- その業界だけで通じる商品知識と社内用語
- 有給休暇の残日数
- 退職金の算定年数(制度がある会社の場合)
消える「勤続年数」の値段を、金額で見る
厚生労働省の賃金構造基本統計調査には、勤続年数の長さ別の賃金という表があります(第7表)。ここでいう賃金は、調査した年の6月分の所定内給与額の平均です。残業代・賞与は入っていません。
異業種に移るということは、この表のいちばん上(勤続0年)に戻るということです。つまり「いま自分がいる段」と「0年の段」の差が、勤続を捨てる値段になります。

| いまの勤続年数 | 賃金(月) | 勤続0年との差 |
|---|---|---|
| 0年 | 294,000 | ― |
| 1〜2年 | 305,800 | −11,800 |
| 3〜4年 | 320,200 | −26,200 |
| 5〜9年 | 338,300 | −44,300 |
| 10〜14年 | 362,800 | −68,800 |
| 15〜19年 | 405,100 | −111,100 |
| 20〜24年 | 434,700 | −140,700 |
| 25〜29年 | 463,900 | −169,900 |
| 30年以上 | 461,800 | −167,800 |
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出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」第7表(勤続年数階級、性、企業規模別賃金)/男・企業規模計・所定内給与額の月額
1〜2年で11,800円、3〜4年で26,200円。この段では、勤続を捨てる損より、次の会社の条件のほうが何倍も大きく効きます。迷う材料にはなりません。
そのマイナスは、会社の規模を1段上げれば初日で消える
同じ第7表は、企業規模別にも分かれています。ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。「勤続0年」の高さは、会社の規模でまるで違います。
この調査では、その企業の常用労働者が1,000人以上を大企業、100〜999人を中企業、10〜99人を小企業と呼んでいます。
| 勤続年数 | 大企業 | 中企業 | 小企業 |
|---|---|---|---|
| 0年 | 314,400 | 294,400 | 272,300 |
| 1〜2年 | 338,500 | 298,700 | 282,000 |
| 3〜4年 | 346,500 | 311,100 | 306,200 |
| 5〜9年 | 370,700 | 327,000 | 319,800 |
| 10〜14年 | 406,900 | 349,700 | 336,100 |
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いちばん上の行だけ見てください。大企業に勤続0年で入った人(314,400円)は、小企業で5〜9年勤めた人(319,800円)とほぼ並びます。入った初日で、前の会社の5年分の位置に立つということです。
- 小企業で勤続1〜2年 → 大企業に0年で移る:月+32,400円
282,000円から314,400円へ。勤続を捨てた損(11,800円)を差し引いても、なお増えます。同じ「異業種で未経験」でも、この向きなら数字はプラスです。
- 中企業で勤続1〜2年 → 大企業に0年で移る:月+15,700円
298,700円から314,400円へ。幅は小さくなりますが、向きは変わりません。
- 大企業で勤続1〜2年 → 小企業に0年で移る:月−66,200円
338,500円から272,300円へ。同じ異業種転職でも、規模を下げると符号が逆になります。落ちる幅は、勤続を捨てる損の5倍以上です。
未経験で入りやすいからと規模を下げると、勤続を捨てる損の何倍もの差がつきます。未経験可の求人は大企業にもあります。規模を下げるのは、その会社でやりたいことが明確なときだけにしてください。
移った先の相場を、先に見ておく
業種によって金額そのものも違います。25〜29歳・男の産業別の賃金を並べると、いちばん上と下で87,100円ひらきます。参考として、その産業の平均勤続年数(男・年齢計)も並べました。平均勤続年数が短い産業は、それだけ外から人が入ってきている産業ということです。
| 産業 | 25〜29歳の賃金(月) | 平均勤続年数 |
|---|---|---|
| 学術研究,専門・技術サービス業 | 343,100 | 13.2年 |
| 金融業,保険業 | 339,800 | 16.7年 |
| 鉱業,採石業,砂利採取業 | 327,000 | 14.1年 |
| 不動産業,物品賃貸業 | 314,900 | 11.7年 |
| 情報通信業 | 312,400 | 13.4年 |
| 電気・ガス・熱供給・水道業 | 310,300 | 18.1年 |
| 建設業 | 296,000 | 14.3年 |
| 教育,学習支援業 | 290,600 | 13.3年 |
| 全産業の平均 | 288,000 | 14.2年 |
| 医療,福祉 | 285,900 | 10.6年 |
| 運輸業,郵便業 | 284,000 | 13.5年 |
| 卸売業,小売業 | 281,400 | 16.2年 |
| 生活関連サービス業,娯楽業 | 278,200 | 11.9年 |
| サービス業(他に分類されないもの) | 272,100 | 10.2年 |
| 製造業 | 267,000 | 16.4年 |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 259,000 | 10.7年 |
| 複合サービス事業 | 256,000 | 18.1年 |
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出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」第5-2表(産業、性、年齢階級別賃金)および第2表(性、年齢階級別賃金)/男・所定内給与額の月額。平均勤続年数は各産業の男・年齢計。「全産業の平均」の行だけ順位ではなく位置の目印として挟んでいます
自分がどのケースか、3つに分ける
ここまでの数字を、自分の状況に当てはめます。いまの会社の規模と勤続年数だけで決まります。
※このメーターは「異業種にそのまま移ったとき、賃金の面でどれだけ有利か」を上の表から筆者が5段階に整理したものです。公的機関の評価ではありません
勤続5年以上で業種も職種も同時に変えると、捨てるものが2つになります。職種(やってきた作業)を残して業種だけ変えるなら、経験が評価される側に立てます。
新卒で入ったアパレルを8ヶ月で辞めたとき、いちばん怖かったのは「8ヶ月が無駄になる」ことでした。実際に移ってみると、無駄になったのはブランドの型番と社内の呼び名だけで、接客も在庫の数え方もそのまま使えました。むしろ痛かったのは、次に小さい会社を選んだことです。給料は前より下がりました。業種を変えたからではなく、規模を下げたからでした。
動く前の30分でやっておくこと
業界名を並べて比べる前に、これを済ませてください。ここが終わっていれば、求人を見たときの判断が速くなります。
- いまの会社の従業員数を調べる
1,000人以上か、100〜999人か、10〜99人か。この1つで、上の表のどの列にいるかが決まります。会社の採用ページか登記情報で分かります。
- 入社年月から、勤続年数を月単位で出す
1〜2年か、3〜4年か。捨てる値段はこれで決まります。年度ではなく月で数えてください。
- いまの所定内給与を、給与明細から拾う
総支給額ではありません。残業代・通勤手当を抜いた額です。これを出さないと、上の表と比べられません。
- 「残るもの」を5行だけ書き出す
接客・数字の管理・段取りなど、業種が変わっても持っていける作業です。職務経歴書の骨格になります。
- いまの自分の水準を、一度数字で見る
感覚で「自分は安い/高い」と決めると、条件のいい求人を自分から外します。先に数字を見てから求人を見てください。
「異業種」と「未経験」は同じ意味ではない、という話
求人票の「未経験歓迎」は、職種の未経験を指していることがほとんどです。業種が違っても同じ職種(たとえば法人営業)なら、経験者として扱われます。逆に同じ業種でも職種が変われば未経験です。異業種に移るときは、求人票の「未経験」がどちらを指しているのかを、必ず仕事内容の欄まで読んで確かめてください。ここを取り違えると、経験者として出せるはずの求人に未経験枠で応募することになります。
まとめ:決める順番は、勤続 → 規模 → 業種
異業種転職で消えるのは勤続年数だけで、その値段は捨てる長さで決まります。勤続1〜2年なら月11,800円、20〜24年なら140,700円。第二新卒はこの値段がいちばん安い側にいます。
そして、そのマイナスより大きいのが会社の規模です。大企業の勤続0年(314,400円)は、小企業の勤続5〜9年(319,800円)とほぼ並びます。小企業で1〜2年の人が大企業に移れば、業種が変わっても月32,400円ふえる計算になります。逆に規模を下げると、同じ異業種転職でも月66,200円落ちます。
だから決める順番は勤続 → 規模 → 業種です。業界名から入ると、いちばん効く規模の判断が後回しになります。動く時期そのもので迷っているなら、第二新卒の転職時期も先に読んでおくと、月の決め方まで一度に片づきます。
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第二新卒で異業種に移ると、給料は必ず下がりますか?
異業種に移ると、いままでの経験は全部むだになりますか?
業種と職種、どちらを変えるほうが難しいですか?
未経験だから、まず小さい会社で経験を積むべきですか?
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(第2表・第5-2表・第7表/図表のExcelを開いて原表から転記)/同「主な用語の定義」(賃金・勤続年数・企業規模の定義)。いずれも筆者が実際に閲覧して確認しました(情報の時点:2026年9月28日)
