筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、いまはファッションバイヤー兼古物商として働いています。金額はすべて厚生労働省の統計表を実際にダウンロードして確認したものだけを書きました。会社ごとの給与規程は当然ちがうので、最後は自社の規程と求人票で確かめてください。
「本社勤務の給料」が調べても出てこないのは、国の統計に「本社」という欄が無いからです。
本社にいる人は、ひとまとめに数えられていません。企画・総務・経理・営業事務・デザイン・仕入と、職種ごとにバラバラの欄に入っています。そこで、自分が行きたい仕事を統計の職種名に置き換えると金額が出ます。売場の販売店員が年収換算459.3万円(男)。本社側はいちばん低い区分でも576.4万円、いちばん高い企画事務員で825.2万円でした。
自分の職種の金額を見る統計に「本社勤務」という欄は無い
賃金の相場を調べるときの大元は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査です。この調査が集計している切り口は、産業・職種・役職・企業規模・学歴・雇用形態など。「本社」「本部」「店舗」という切り口はどこにもありません。
理由は単純で、統計は「どこの建物にいるか」ではなく「何の仕事をしているか」で人を数えているからです。同じ会社の同じフロアにいても、経理をしている人は会計事務、商品計画をしている人は企画事務、仕入をしている人は商品販売と、別々の欄に振り分けられます。
だから「アパレル 本社勤務 給料」で検索しても、そのままの平均額は出てきません。出すには、自分の仕事を統計の職種名に置き換える必要があります。ここを間違えると、まったく別の職種の金額を自分の相場だと思い込むことになります。
本社の仕事を、統計の職種名に置き換える
アパレルの本社でよく使われる呼び名と、国の統計の職種名の対応はこうなります。金額は年収換算(きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額)です。

| 統計の職種名 | 会社での呼び名 | 年収換算 | 販売店員との差 | 平均年齢/勤続 |
|---|---|---|---|---|
| 販売店員 | 店長・副店長・スタッフ | 459.3万 | — | 43.1歳/13.2年 |
| その他の商品販売従事者 | バイヤー・仕入担当 | 576.4万 | +117.1万 | 42.4歳/13.1年 |
| デザイナー | デザイナー・VMD | 601.5万 | +142.2万 | 41.3歳/11.1年 |
| 会計事務従事者 | 経理・原価・調達 | 627.0万 | +167.7万 | 44.2歳/13.7年 |
| 庶務・人事事務員 | 総務・人事・給与 | 629.5万 | +170.2万 | 46.2歳/15.1年 |
| 営業・販売事務従事者 | 営業事務・営業管理 | 638.7万 | +179.4万 | 45.5歳/16.0年 |
| 総合事務員 | 担当を限らない管理業務 | 674.7万 | +215.4万 | 45.2歳/15.3年 |
| その他の営業職業従事者 | 卸・法人営業 | 689.0万 | +229.7万 | 43.5歳/14.6年 |
| 企画事務員 | 商品企画・MD・マーケティング | 825.2万 | +365.9万 | 44.9歳/15.9年 |
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出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(職種)第1表「職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」。男・企業規模計(10人以上)・一般労働者。年収換算は当サイトによる計算です。2026年9月5日に e-Stat から統計表をダウンロードして確認しました。
いちばん低い区分でも販売店員より117.1万円上、いちばん高い企画事務員では365.9万円上でした。ここで大事なのは、年齢も勤続年数もほとんど変わらないことです。販売店員が43.1歳・勤続13.2年、企画事務員が44.9歳・勤続15.9年。1.8歳と2.7年の差では、366万円の説明はつきません。差を作っているのは経験年数ではなく、職種そのものです。
バイヤーは「販売店員」に入っていない
この対応表でいちばん引っかかるのが、バイヤーの置きどころです。同じ商品を扱う仕事なのに、統計上は販売店員の欄ではなく「その他の商品販売従事者」に入ります。
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の「役職及び職種解説」。1321販売店員の【含まれない職種の例】に「商品仕入員(1324)」、1324その他の商品販売従事者の【含まれる職種の例】に「商品仕入員、仕入外交員、商品バイヤー」と記載されています。
そしてもう1つ、同じ解説には見落とせない一文があります。1321販売店員には「主に商品の仕入・販売に従事している小売・卸売店長・店主も含まれる」と書かれています。つまり店長も、統計の上では販売店員です。店長になっても職種の欄は変わりません。欄が変わるのは、主に経営管理の仕事に従事するようになったとき(管理的職業従事者)だけです。
売場にいた頃、本部の仕入担当は「同じ商売をしている隣の部署」だと思っていました。実際に自分が仕入れる側に回ってみると、見ている数字がまるで違う。売場は今日の消化率を見ますが、仕入は半年先の在庫を見ます。国の分類がこの2つを別の職種として数えているのは、現場感覚としても正しいと思います。
バイヤーという仕事そのものの中身と入口は、アパレルのバイヤーへ転職で分けて書いています。企画やMDを狙う人はアパレルのMDへ転職のほうが近いはずです。
「小売の会社だから本社も安い」は、統計ではそうなっていない
ここまでの表は産業計でした。「でも自分がいるのは小売の会社だから、本社もその分安いのでは」と思うのが自然です。産業を絞った表で確かめます。職種は大きなくくり(大分類)に戻ります。
| 産業/職種(大分類) | 年収換算 | 平均年齢 | 平均勤続 | 労働者数 |
|---|---|---|---|---|
| 卸売業,小売業/販売従事者 | 583.2万 | 43.3歳 | 14.8年 | 約123万人 |
| 卸売業,小売業/事務従事者 | 704.3万 | 47.0歳 | 18.6年 | 約45万人 |
| 卸売業,小売業/専門的・技術的職業従事者 | 683.9万 | 43.0歳 | 12.9年 | 約16万人 |
| 産業計/販売従事者 | 616.0万 | 42.8歳 | 13.8年 | 約191万人 |
| 産業計/事務従事者 | 660.3万 | 45.7歳 | 15.7年 | 約258万人 |
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出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(職種)第20表「職種(大分類)、産業、性別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額」。男・企業規模計(10人以上)・一般労働者。産業区分は「I 卸売業,小売業」。年収換算は当サイトによる計算です。
卸売業,小売業の事務従事者は704.3万円。全業界を合わせた事務従事者の660.3万円より上です。同じ産業の販売従事者(583.2万円)と比べると121.1万円の差。「小売の会社だから本社も安い」は、少なくとも統計ではそうなっていません。
逆になっているのは販売側です。卸売業,小売業の販売従事者は583.2万円で、産業計の販売従事者(616.0万円)より32.8万円下。この業界で低いのは会社ではなく、売場という職種のほうです。同じ話を業界の平均値の側から見たのがアパレルの給料が安い理由で、あちらで「産業の平均には本部の人も入っている」と書いた、その本部の中身がこの章です。
上がるのは金額だけではない。1時間あたりで見る
年収だけを比べると「働く時間も増えるのでは」と思うところですが、統計には労働時間も載っています。1か月の実労働時間(所定内+超過)で割って、時間あたりの単価にしてみます。
| 職種 | 所定内 | 超過 | 合計 | 月額 | 時間単価 |
|---|---|---|---|---|---|
| 販売店員 | 166h | 10h | 176h | 32.6万 | 1,854円 |
| その他の商品販売従事者 | 166h | 9h | 175h | 39.1万 | 2,236円 |
| デザイナー | 164h | 8h | 172h | 41.6万 | 2,418円 |
| 庶務・人事事務員 | 160h | 11h | 171h | 41.1万 | 2,402円 |
| 営業・販売事務従事者 | 161h | 12h | 173h | 42.5万 | 2,455円 |
| 総合事務員 | 158h | 12h | 170h | 43.3万 | 2,547円 |
| 企画事務員 | 159h | 11h | 170h | 51.5万 | 3,029円 |
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所定内実労働時間数・超過実労働時間数・きまって支給する現金給与額は、上と同じ(職種)第1表の数値(男・2025年6月分)。時間単価は「きまって支給する現金給与額 ÷(所定内+超過)」で当サイトが計算したものです。
本社側の職種は、所定内の労働時間がそろって短くなります。販売店員の166時間に対して、事務系は158〜161時間。一方で超過(残業)は11〜12時間と、販売店員の10時間より少し増えます。合計すると170〜173時間で、販売店員の176時間より3〜6時間短い。時間は減って単価は上がる、という並びになっています。
ただし残業が増える側面は本当です。売場は営業時間で終わりが決まりますが、本社の仕事は締切で終わりが決まります。ここは金額で得をしても、生活のリズムは変わると考えておいたほうがいいところです。
数字に出ている壁は、勤続年数のほう
ここまで見ると本社に移らない理由がないように見えますが、同じ表にちゃんと壁も出ています。勤続年数と、椅子の数です。
数字が味方する点
- 年齢がほぼ同じでも年収が117万〜366万上
- 所定内の労働時間が3〜8時間短い
- 小売業の事務職は産業計の事務職より高い
- 時間単価では最大1,175円の差
数字が示す壁
- 卸売業,小売業の事務従事者は平均勤続18.6年
- 同じ産業の販売従事者は14.8年。3.8年長い
- 人数は販売従事者の約3分の1(約45万人)
- 企画事務員は勤続15.9年。未経験の入口ではない
勤続18.6年という数字は、本社の事務の椅子が「長くいる人」で埋まっていることを意味します。人数も販売従事者の約123万人に対して約45万人。金額が高いのは、そこに空きが少ないからでもあります。求人数の側から同じ構造を見たのがアパレル本社勤務への転職で、椅子の数を実際に数えています。
そして事務系のどこを狙うかで難易度は大きく変わります。企画事務員は金額が突出している代わりに、販売から直接移るのは現実的ではありません。事務の内訳と入りやすさの順番はアパレルから事務へ転職に分けてあります。
動く前に、この4つを確かめる
統計はあくまで全国の平均です。自分の会社と応募先で、次の4つを先に確かめてください。ここが埋まらないうちは、金額の比較をしても意味がありません。
- 社内公募や職種転換の制度があるか
就業規則か人事のイントラに書いてあります。制度があるなら、外に出るより先に手を挙げるほうが早い。制度が無い会社は、本社の椅子が中途採用と本社採用だけで埋まっている可能性があります。
- 販売職と本社職で、給与テーブルが別かどうか
別テーブルなら、店舗で等級を上げても本社の水準には届きません。同一テーブルなら、異動しても等級はそのまま持っていけます。給与規程の「職群」「コース」という言葉を探してください。
- 求人票の職種名が、統計のどの区分にあたるか
「本社スタッフ」「管理部門」のような書き方は、この記事の表のどこにも対応しません。仕事内容の欄を読んで、企画なのか、経理なのか、営業事務なのかまで落としてから金額を当ててください。
- いまの自分の時間単価
給与明細のきまって支給する額を、勤怠表の実労働時間(残業込み)で割るだけです。この1つの数字が、応募先の条件と直接比べられる唯一の物差しになります。
3つ以上あてはまるなら、社内では動かない可能性が高い状態です
- 社内公募の制度が無い、または過去に本社へ移った先輩を知らない
- 販売職と本社職で給与テーブルが分かれている
- 店長・副店長になっても月の実労働時間が170時間を下回らない
- 自分の時間単価を計算したら2,000円に届かなかった
→ 3つ以上なら、辞めるかどうかより先に「他社の本社職の求人票を、職種名まで落として読む」段階です。
まとめ
- 統計に「本社勤務」の欄は無い
本社にいる人は職種ごとに別の欄で数えられています。金額を出すには、自分の仕事を職種名に置き換える必要があります。
- 販売店員459.3万円が出発点
本社側はいちばん低い区分でも576.4万円、企画事務員で825.2万円。差は117.1万〜365.9万円で、年齢も勤続年数もほぼ同じです。
- バイヤーも店長も、統計の位置が直感とずれる
バイヤーは販売店員から除外されて「その他の商品販売従事者」。店長は逆に、販売店員のまま数えられます。
- 小売業だから本社も安い、はあてはまらない
卸売業,小売業の事務従事者は704.3万円で、産業計の事務従事者より44.1万円高い数字でした。
- 壁は勤続年数のほうに出ている
卸売業,小売業の事務従事者は平均勤続18.6年、人数は販売従事者の約3分の1。金額が高いのは、空きが少ないことの裏返しでもあります。
