筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在はファッションバイヤーとして仕入れの実務に関わる古物商です。この記事では転職サービス「iDA」を紹介しています。衣類の供給・廃棄に関するデータは環境省の公開資料を参照し、出典を明記しています(情報時点 2026年8月)。
バイヤーは「好きな服を選ぶ仕事」ではありません。何着買うかを決めて、売れ残りの責任を負う仕事です。
評価されるのは、当てた枚数ではなく残さなかった枚数。ここを取り違えたまま志望動機を書くと、面接で必ず止まります。元販売員で現役バイヤーの筆者が、仕事の実像と、30代の販売職からの入り方をお伝えします。
まず評価軸の話から見るバイヤーの成果は「当てた枚数」ではなく「残さなかった枚数」
店頭に立っていると、バイヤーは展示会をまわって好きな服を選んでいる人に見えます。実際にやっていることは、そのほとんどが数の判断です。理由は業界全体の構造にあります。
環境省の調査によると、国内のアパレル供給数は増え続けている一方で、衣服一枚あたりの購入単価は年々安くなり、市場規模はむしろ下がっています。売る枚数を増やしても、売上はついてこない構造になっているということです。
その結果がどこに出るか。同じ調査では、一年間に一度も着られていない服が一人あたり24着あり、持っている服の45%は使われずにしまい込まれたままだとされています。そして手放されたあと、リユースもリサイクルもされずに焼却・埋立に回る衣類は年間で約46万トン。大型トラック約130台分を毎日処分している計算です。
出典:環境省「サステナブルファッション|ファッションと環境の現状」(令和7年度 循環型ファッションの推進方策に関する調査業務/アンケート調査およびマテリアルフロー)
政府は、家庭から廃棄される衣類の量を2030年までに2020年度比で25%減らす目標を掲げています。つまり業界の外側からも「作りすぎ・入れすぎを止めろ」という圧がかかっている。この状況で仕入れの数を決める人が、好みで枚数を積める余地はありません。
バイヤーが握っている決定は、4つしかない
求人票の「職務内容」には、たいてい「商品仕入」「取引先折衝」「MD業務」とだけ書いてあります。これでは中身が分かりません。実際に手を動かして決めているのは、次の4つです。

- 何を入れるか
ブランドと型を決めます。ここで似た型を2つ入れると、店頭で互いに客を食い合って両方が残ります。「どちらもいい」は仕入れでは不正解です。
- 何着入れるか
サイズ別・色別の枚数まで決めます。バイヤーの成果がいちばん露骨に出るのがここで、読み違えた枚数はそのまま値下げ額になります。
- いくらで買うか
店頭価格ではなく原価と掛け率を決めます。値下げしても利益が残る形にできるかどうか。売れても粗利が残らない仕入れは失敗です。
- いつ出すか
店頭に出す時期と、追加を打つ締切を決めます。天候が動くと、1週間ずれただけで消化率が変わります。
4つとも、決めているのは数と条件です。「どの服が好きか」は入っていません。だから面接で「服が好きです」と答えても評価は動きません。動くのは、数の話ができるかどうかです。
販売員のころ、展示会から帰ってきたバイヤーに「今期これ入れました」と見せてもらって、正直に「これは売れないと思います」と言ったことがあります。返ってきたのは「何枚だと売れる?」でした。好き嫌いを聞かれていたのではなく、枚数を聞かれていたんだと後から分かりました。
販売職の経験は、半分は効いて半分は効かない
店頭に立ってきた経験は、バイヤーの仕事でそのまま武器になる部分と、まったく評価されない部分にきれいに分かれます。ここを取り違えて職務経歴書を書くと、通るはずの求人で落ちます。
効くもの
- サイズと色の売れ残り方を見てきた経験
Mから消えるのか、黒だけ残るのか。これは枚数を決めるときの直接の根拠になります - 値下げの現場を見た回数
いつ、何%下げて、それでも動かなかったものを知っている人は、原価の話ができます - 客の断り文句を覚えていること
「丈が」「重い」「洗えない」。買われなかった理由は、仕入れを止める理由と同じです - 消化率という言葉を体で分かっていること
数字を扱う職種なので、ここが感覚で分かる人は入ってからの立ち上がりが早い
効かないもの
- 個人売上の高さ
接客で売った実績は、仕入れの精度とは別の能力として見られます - ブランドやデザイナーへの詳しさ
知識は前提であって差にはなりません。応募者全員が持っています - 「服が好き」という動機
いちばん多く書かれるので、書いた時点でその他大勢に混ざります - 店長としてのマネジメント経験
評価はされますが、バイヤー職の選考では中心には来ません
止めはしませんが、通る確率がはっきり下がります。応募の前に、担当していた売場のサイズ別・色別の残り方を一度書き出してください。それが職務経歴書の中身になります。
入口は3つ。30代からだと現実的なのは真ん中と右
バイヤーという職種にたどり着くルートは、大きく3つあります。それぞれ入りやすさも、任される範囲も違います。
| 入口 | 入りやすさ | 最初に任される範囲 | 30代販売職からの現実味 |
|---|---|---|---|
| いまの会社で社内異動 | 会社次第 | アシスタントから | 制度があるなら最短。無ければ動かない |
| セレクトショップ・専門店 | 中 | 一部カテゴリの仕入れ | 店頭経験がそのまま評価されやすい |
| リユース(買取・古着) | 比較的高い | 査定と買付の両方 | 未経験の募集が出やすく、目利きが数字になる |
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入りやすさと任される範囲は、筆者が業界内で見てきた範囲での整理です。企業ごとに異なるため、応募先の条件は必ず求人票と面接で確認してください
意外に思われるのですが、30代の販売職から最も入りやすいのはリユース側です。新品のバイヤーは枠が少なく、社内で埋まります。一方リユースは、買う相手が問屋ではなく一般のお客様なので、店頭で人と話してきた経験がそのまま効きます。しかも「いくらで買うか」を毎日決めるので、バイヤーの4つの決定のうち2つを最初から任されます。
筆者自身も、査定員として買取の現場に入ってから仕入れの数字を扱うようになりました。新品の展示会から入ったわけではありません。
3つ以上あてはまる人は、いま動いて間に合う段階です
- 担当売場で「何が何枚残ったか」を答えられる
- セール前の値下げ幅を自分で決めた、または意見を求められたことがある
- 発注・追加の相談を本部から受けたことがある
- 接客より、数字を見て組み立てるほうが向いていると感じる
- 店頭にあと10年立ち続ける自分が想像できない
→ 3つ以上なら、辞めるかどうかより先に「職種を指定して求人が出るか」を見る段階です。
求人票のどこを見るか
「バイヤー」と書かれた求人でも、実際の裁量は会社によってまったく違います。次の4点が書かれているかどうかで、任される範囲が読めます。
いちばん上を最優先で見てください。予算の数字が書いていない求人は、実態がアシスタントであることが多いです。悪い求人という意味ではなく、入口としては妥当なこともあります。ただ「バイヤーとして採用されたのに発注権限がない」というズレは、事前に潰せます。
そして「MDとの分業」。会社によっては、何を入れるかはバイヤー、何着入れるかはMD、と分かれています。その場合、4つの決定のうち2つ目が手元にありません。面接で必ず聞いてください。
むしろ聞ける人のほうが評価されます。仕事の中身を分かっている応募者だと伝わるからです。
職種を指定して探せる場所から動く
バイヤーの求人は、一般の転職サイトで「バイヤー」と検索すると、食品・資材・製造など別業界の調達職が大量に混ざります。アパレルのバイヤー職だけを見たいなら、業界を絞っている紹介サービスを使うほうが早いです。
iDA
アパレル・ファッション業界に特化した人材紹介・派遣のサービスです。業界を絞っているので、「バイヤー」「MD」といった職種名でそのまま相談ができます。登録・相談は無料です。
iDAに無料で登録する 登録・相談は無料 / アパレル・ファッション業界に特化相談するときは、「バイヤーになりたい」ではなく「担当していた売場で、何が何枚残ったかを説明できます」から入ってください。前者は全員が言います。後者を言える販売職は多くありません。
まとめ
- 評価軸を入れ替える
当てた枚数ではなく、残さなかった枚数。ここが分かっていることを職務経歴書で示します。
- 自分の売場の数字を書き出す
サイズ別・色別の残り方、値下げ幅、断られた理由。これが唯一の武器です。
- 入口を1つに絞る
社内異動の制度があるなら最短。無ければ、セレクトショップかリユースのどちらかに決めます。
- 職種を指定して求人を出してもらう
業界を絞ったサービスで「バイヤー」「MD」と指定し、求人票の4点を確認します。
