この記事の時給は、厚生労働省が毎年公表している労働者派遣の局長通達(令和8年度適用)の別添1・別添3を実際に開き、そこに書かれた基準値と地域指数から計算したものです。月額の賃金は「令和7年賃金構造基本統計調査」、派遣の業務区分は労働者派遣法施行令の条文です。求人サイトの相場情報は使っていません。筆者は元アパレル販売員で、いまはファッションバイヤー兼古物商として、作る側と売る側の両方を見ています。確認日は本文の出典に書きました。
デザイナーの派遣の下限は東京で1,518円。販売店員より207円高く、会計事務より106円低い。
「デザイナーは専門職だから給料が高い」という前提は、公的な数字では支持されません。国の職種一覧にデザイナーは1区分しかなく、その基準値は事務系の職種のいくつかを下回ります。アパレルで金額が動くのは、絵を描く側ではなく「何をいくつ作るか決める側」です。
周辺の職種と比べる国の分類に「アパレルデザイナー」は無い。デザイナーは1区分だけ
派遣で働く場合、時給には法律上の下限があります。労働者派遣法30条の4により、派遣会社が労使協定方式を選んでいるときは、賃金が同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金と同等以上でなければならず、その額が毎年、職種別に公表されるからです。
その職種一覧は146区分ありますが、デザイナーはそのうちの1つだけです。アパレルのデザイナーも、グラフィックデザイナーも、プロダクトデザイナーも、この1区分に入ります。
出典:厚生労働省 令和8年度適用 局長通達 別添1「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」(Excel)の職業分類1224「デザイナー」の基準値および同表の「基準値に能力・経験調整指数を乗じた値」に、別添3「職業安定業務統計による地域指数」(Excel)の東京111.4を掛け、1円未満を通達の定めどおり切り上げたもの。掲載元は厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」(mhlw.go.jp)。2026年9月5日に確認。
アパレルの制作まわりを、下限で並べてみる
デザイナーの1,518円が高いのか低いのかは、隣の職種と並べないと分かりません。アパレルの商品ができるまでに関わる職種を、東京・勤続0年の下限で並べます。
| 職種 | アパレルでいうと | 基準値 | 東京・0年 |
|---|---|---|---|
| 企画事務員 | 商品企画・MD・予算の組み立て | 1,983 | 2,210 |
| 会計事務従事者 | 経理・原価計算 | 1,457 | 1,624 |
| 営業・販売事務従事者 | 受発注・営業アシスタント | 1,421 | 1,583 |
| デザイナー | デザイン・パターン設計 | 1,362 | 1,518 |
| 生産関連事務従事者 | 生産管理・工程管理 | 1,298 | 1,446 |
| 販売店員 | 店頭の販売スタッフ | 1,176 | 1,311 |
| 紡織・衣服・繊維製品製造従事者 | 縫製・サンプル製作 | 963 | 1,073 |
出典:同上。職種名は局長通達 別添1の表記どおり。「アパレルでいうと」の欄は、仕事の中身から筆者が対応づけたものです。
デザイナーは上から4番目です。販売店員より207円高いけれど、会計事務より106円、企画事務員より692円低い。
技術が要らないという話ではありません。ただ、賃金という物差しで見ると、デザイナーは事務系の職種のいくつかを下回る位置にいます。ここを知らずに「専門職だから上がるはず」と期待すると、入ったあとで落差を感じることになります。
なぜ「作る側」より「決める側」が高いのか
表をもう一度見ると、いちばん上は企画事務員です。アパレルでいえば、何を何型、何色、いくつ、いくらで作るかを決める仕事。デザイナーの692円上にいます。
この差は、責任の重さの差というより「金額を動かす仕事かどうか」の差です。デザインは商品の魅力を決めますが、在庫の金額を直接動かすのは投入数量と価格の決定です。そして企業は、金額を動かす仕事に高い賃金を払います。
アパレルの本部でこの役割を担うのがMDです。MDとバイヤーの違い、そこで求められるものはアパレルのMDへ転職に書きました。デザイナーとして入ってから企画へ移る、という道筋はアパレルでは珍しくありません。
「作る側」の中でも、縫製と設計では445円違う
表のいちばん下、紡織・衣服・繊維製品製造従事者は東京・0年で1,073円です。デザイナーとの差は445円。同じ「服を作る」でも、縫うのか、設計するのかで下限が1.4倍変わります。
そして1,073円は、東京都の地域別最低賃金1,226円を下回っています。この場合、通達は最低賃金の額を基準値に置き換えたうえで能力・経験調整指数を掛けることを定めているので、実際の下限は1,226円になります。職種として計算した額より、最低賃金のほうが高いという状態です。
出典:東京都の地域別最低賃金1,226円(令和7年10月3日発効)。厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(mhlw.go.jp)。2026年9月5日に確認。
派遣でデザイナーに入る道は、法律上ひらけている
デザインの仕事は、派遣の制度の中で「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」として位置づけられています。日雇派遣が原則禁止されている中で、例外として認められる19業務の1つに入っているからです。
十六 商品若しくはその包装のデザイン、商品の陳列又は商品若しくは企業等の広告のために使用することを目的として作成するデザインの考案、設計又は表現の業務
出典:労働者派遣法施行令(昭和61年政令第95号)第4条第1項第16号(e-Gov法令検索)。2026年9月5日に確認。
これが意味するのは、デザインの仕事は短い契約の派遣でも認められているということです。展示会前だけ、サンプル制作の時期だけ、という入り方が制度上できます。
月給で見ると、製造業は小売業より低い
派遣ではなく正社員として、アパレルのメーカーへ移ることを考えている人には、もう1つ知っておくべき数字があります。産業別の賃金です。
| 産業 | 月額(男女計・年齢計) | 前年比 |
|---|---|---|
| 電気・ガス・熱供給・水道業 | 44.4万円 | +1.5% |
| 卸売業,小売業 | 34.9万円 | +1.6% |
| 製造業 | 33.0万円 | +3.6% |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 27.7万円 | — |
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(5)産業別にみた賃金、第5-1表(mhlw.go.jp)。所定内給与額(2025年6月分)。産業計の最高は電気・ガス・熱供給・水道業444.0千円、最低は宿泊業,飲食サービス業277.2千円。卸売業,小売業349.1千円、製造業330.0千円。2026年9月5日に確認。
製造業は卸売業・小売業より1.9万円低い。「小売から製造業のメーカーへ移れば上がる」という単純な図式は、統計では成り立ちません。上がるとすれば、産業を変えたからではなく職種を変えたからです。
販売からデザイナーへは、直接はつながらない
正直に書きます。アパレルの販売職からデザイナーへの直行は、現実的な道ではありません。採用で見られるのはポートフォリオと、パターンやCADの実務経験だからです。売場での実績は、ここでは評価の対象になりません。
それでも、売場の経験が効く隣接職はあります。
- 生産管理(生産関連事務従事者・東京1,446円)
在庫の実数を追い、納期を管理してきた経験がそのまま接続します。工場・商社・デザイナーの間に立つ仕事なので、制作の現場が見えます。
- 商品企画・MD(企画事務員・東京2,210円)
売場で何が売れて何が残ったかを見てきたことが、いちばん効く職種です。下限も最上位です。
- 営業・販売事務(東京1,583円)
受発注と取引先対応。本部の中では入りやすく、そこから企画側へ移る人がいます。
デザイナーになりたいのか、服を作る側に関わりたいのか。この2つを分けて考えると、選べる道が急に増えます。求人票の「デザイナー」という言葉が3種類に分かれることはアパレルのデザイナー転職に書きました。
デザイナーの求人票で確かめる4つ
- 派遣なら、労使協定方式か。職種は「デザイナー」で協定されているか。別の職種で協定されていれば下限も変わります
- 仕事の中身が、デザインの考案・設計・表現か。資料作成や庶務が中心なら、職種名と実態がずれています
- 使うツールは何か。手描きなのか、Illustrator・CLOなどのCADなのか。ここが未経験の壁になります
- 企画側と兼務するのか、分業か。兼務するなら、企画の職種として評価される余地があります
まとめ
- 国の職種一覧にデザイナーは1区分だけ。アパレルもグラフィックも同じ基準値1,362円
- 東京・0年の下限は1,518円。販売店員より207円高く、会計事務より106円低い
- いちばん高いのは企画事務員2,210円。作る側より「何をいくつ作るか決める側」が上
- 縫製にあたる職種は1,073円で最低賃金を下回るため、下限は1,226円に置き換わる
- デザインは日雇派遣の例外業務(施行令4条1項16号)。短い契約でも制度上認められている
- 月額では製造業33.0万円 < 卸売業・小売業34.9万円。メーカーへ移れば上がる、とは言えない
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