この記事の時給は、厚生労働省が毎年公表している労働者派遣の局長通達(令和8年度適用)の別添1・別添3を実際に開き、そこに書かれた基準値と地域指数から計算したものです。賃金は「令和7年賃金構造基本統計調査」、簿記の合格率は日本商工会議所の公表データです。求人サイトの相場情報は使っていません。筆者は元アパレル販売員で、いまはファッションバイヤー兼古物商として働いています。確認日は本文の出典に書きました。
「事務に移りたい」で終わらせない。国の職種一覧では、事務は12に分かれています。
そして、販売店員より時給の下限が低い事務が2つあります。いちばん高い事務は販売店員の1.69倍。同じ「事務職」という言葉でも、東京の下限は1,198円から2,210円まで開いています。どこを狙うかを決めないまま応募すると、下がる側に着地します。
12種類を並べて見る「事務」は職種名ではなく、束ねた呼び名
アパレルから事務へ移りたいという相談は多いのですが、「事務」という職種は国の分類には存在しません。存在するのは、もっと細かい12の区分です。
これは言葉遊びではありません。派遣で働く場合、この区分のどれで契約されるかによって、法律上の時給の下限が変わります。労働者派遣法30条の4により、派遣会社が労使協定方式を選んでいるときは、賃金が同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金と同等以上でなければならず、その額は毎年厚生労働省の職業安定局長通達で職種別に公表されるからです。
派遣の下限で並べると、こうなる
| 職種 | 基準値(0年) | 東京・0年 | 東京・3年 |
|---|---|---|---|
| 企画事務員 | 1,983 | 2,210 | 2,758 |
| 庶務・人事事務員 | 1,468 | 1,636 | 2,041 |
| 総合事務員 | 1,461 | 1,628 | 2,031 |
| 会計事務従事者 | 1,457 | 1,624 | 2,026 |
| その他の一般事務従事者 | 1,445 | 1,610 | 2,009 |
| 営業・販売事務従事者 | 1,421 | 1,583 | 1,976 |
| 電話応接事務員 | 1,355 | 1,510 | 1,884 |
| 生産関連事務従事者 | 1,298 | 1,446 | 1,805 |
| 事務用機器操作員 | 1,271 | 1,416 | 1,767 |
| 運輸・郵便事務従事者 | 1,226 | 1,366 | 1,705 |
| (参考)販売店員 | 1,176 | 1,311 | 1,636 |
| 受付・案内事務員 | 1,075 | 1,198 | 1,495 |
出典:厚生労働省 令和8年度適用 局長通達 別添1「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」(Excel)の基準値(0年)および同表の「基準値に能力・経験調整指数を乗じた値」の3年欄に、別添3「職業安定業務統計による地域指数」(Excel)の東京111.4を掛け、1円未満を通達の定めどおり切り上げたもの。掲載元は厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」(mhlw.go.jp)。2026年9月5日に確認。表には事務系の職種と、比較のための販売店員のみを抜き出しています。
並べると2つのことが見えます。
「事務に移れば上がる」は成り立たない
受付・案内事務員の東京・0年は1,198円で、販売店員の1,311円より113円低い。月160時間で18,080円、年間で21万円下がります。
受付・案内は、アパレルの販売から移りやすい仕事に見えます。人と話す仕事で、立ち仕事で、身だしなみが評価される。だから求人も通りやすい。通りやすい入口ほど、賃金の下限が低いという関係になっています。
立ち仕事から座り仕事へ、という軸で選ぶと受付・案内に着地しがちです。労働環境は改善しても、金額は下がる。そこを承知で選ぶのは構いませんが、知らずに選ぶ理由はありません。
いちばん高い「企画事務員」は何をする仕事か
表の一番上、企画事務員の2,210円は突出しています。2位の庶務・人事事務員に574円の差を付けている。事務系の中で1つだけ、別の水準にいます。
この職種が何を指すかは、厚生労働省が職種の選択にあたって参照するよう案内している「賃金構造基本統計調査の職種一覧と解説」または「厚生労働省編職業分類」で確認することになっています。アパレルでいえば、商品計画、販売計画、予算の組み立て、店舗展開の企画といった仕事がここに寄ります。
そして、販売員から直接この職種へ移るのは、現実には難しい。下限が高いのは、そこに就く人の賃金水準が高いからで、要求される経験も相応です。狙うなら、その前に1段階挟むことになります。
販売の経験が、そのままつながる事務は3つ
アパレルの売場でやってきたことを、事務の職種に翻訳します。実際にやっていることを、事務の言葉で言い直すだけです。
| 売場でやっていたこと | 寄る職種 | 東京・0年の下限 |
|---|---|---|
| 在庫を数える/店間移動を出す/発注をかける | 生産関連事務従事者 | 1,446円 |
| EC分の受注処理/取り置き・取り寄せの手配/顧客対応 | 営業・販売事務従事者 | 1,583円 |
| レジ締め/日次の売上報告/釣銭と現金の管理 | 会計事務従事者 | 1,624円 |
3つとも販売店員より上です。いちばん下の生産関連事務でも135円、会計事務なら313円上がります。年間にすると、生産関連事務で25万円、会計事務で60万円の差です。
大事なのは、これらがすでにやっていた仕事だということです。新しい能力を身につける話ではなく、職務経歴書の書き方を変える話です。「接客が好きです」ではなく「在庫の実数管理を店舗単位でやっていました」と書く。この違いはアパレル転職の自己PRで詳しく書きました。
経理を狙うなら、簿記は「級」より「受け方」を先に決める
会計事務従事者を狙うなら、日商簿記を持っているかどうかが見られます。ここで知っておくべき数字があります。同じ2級でも、受け方によって合格率が2倍以上違います。
| 試験 | 実受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 2級・統一試験(第173回) | 4,821名 | 728名 | 15.1% |
| 2級・ネット試験(1年分) | 141,072名 | 46,351名 | 32.9% |
| 3級・統一試験(第173回) | 14,359名 | 4,854名 | 33.8% |
出典:日本商工会議所「簿記 受験者データ」(kentei.ne.jp)。統一試験は第173回(2026年6月14日施行)、ネット試験は2025年4月〜2026年3月の集計。2026年9月5日に確認。
ネット試験は試験会場が設定した日時に随時受験できる方式です。統一試験は年3回しかありませんが、ネット試験なら受けたいときに受けられて、合格率も32.9%。資格の名前としてはどちらも同じ「日商簿記2級」です。
同じ事務でも、正社員か非正社員かで水準がもう一段変わる
ここまで派遣の下限で話してきましたが、正社員として事務に移る場合は別の物差しになります。雇用形態別の賃金を見ます。
| 月額(男女計) | 正社員=100とした指数 | |
|---|---|---|
| 正社員・正職員 | 35.9万円 | 100.0 |
| 正社員・正職員以外 | 24.2万円 | 67.4 |
| (卸売業,小売業での格差) | — | 61.3 |
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(6)雇用形態別にみた賃金(mhlw.go.jp)。正社員・正職員358.8千円、正社員・正職員以外241.7千円、雇用形態間賃金格差は男女計67.4。産業別では卸売業,小売業が61.3。所定内給与額(2025年6月分)。2026年9月5日に確認。
卸売業・小売業の格差61.3は、産業の中でも小さいほうです。つまりこの業界は、正社員と非正社員の差が他産業より開いている。同じ事務の仕事をしても、雇用形態でここまで変わるということです。
だから順番としては、①どの事務職種を狙うかを決める → ②派遣で入るか正社員で入るかを決めるになります。逆にすると、「事務の正社員」という広すぎる条件で探して、受付・案内の枠に着地します。
持っていけるもの、置いていくもの
そのまま持っていける
- 数字を扱った経験(在庫、売上、消化率、坪効率)
- 期限のある処理を回した経験(棚卸、セール準備、月次の締め)
- 社内外との調整(本部、他店舗、取引先、館の運営)
- 基幹システムやPOSの操作経験
置いていくことになる
- 個人売上の実績(事務職の評価軸ではありません)
- 接客のスキルそのもの(あるに越したことはないが、選考の主軸にならない)
- 役職(店長・副店長は事務職の等級には接続しません)
置いていくもののほうが、書類では書きたくなるものです。個人売上を大きく書くほど「販売の人」として読まれます。事務職に応募するなら、書くのは在庫と締めと調整のほうです。
求人票で確かめる4つ
- 派遣なら、労使協定方式か。そして職種は何で協定されているか。ここが下限を決めます。「事務」ではなく、12のうちどれかを聞いてください
- 仕事の中身が、職種名と合っているか。受付・案内で契約されているのに実際は受注処理をしている、という形もありえます
- 正社員なら、事務職の等級制度があるか。販売職と事務職で別の給与テーブルになっている会社は多い
- 未経験可の理由は何か。簿記が要らないのか、システムの操作だけなのか、教育の仕組みがあるのか
まとめ
- 国の職種一覧に「事務」という職種は無い。12の区分に分かれる
- 東京・0年の下限は受付・案内1,198円から企画事務員2,210円まで1,012円の開き
- 受付・案内事務員は販売店員より113円低い。移りやすい入口ほど下限が低い
- 販売の経験がそのまま効くのは生産関連事務・営業販売事務・会計事務の3つ。いずれも販売店員より上
- 簿記2級は統一試験15.1%/ネット試験32.9%。同じ資格で受け方だけが違う
- 卸売業・小売業は正社員と非正社員の格差が61.3と大きい。職種を決めたら雇用形態も決める
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