この記事に出てくる割合は、厚生労働省「令和2年転職者実態調査」の図表データ(公式のExcelファイル)を実際に開いて、該当する表の行から直接読んだ数字だけを載せています。まとめサイトや他社ブログの解説は使っていません。公式で確認できなかったことは書いていません。筆者は元アパレル販売員で、いまはファッションバイヤー兼古物商として働いています。確認日は本文の出典に書きました。
前職がアパレルでも、次の会社に引き継がれるのは経験・能力・知識です。役職を見る会社は6.7%しかありません。
「店長をやっていました」は、思っているほど効きません。国の調査で、転職者の賃金や役職を決めるときに「前職の役職」を考慮したと答えた小売の事業所は、100社のうち7社もないからです。効くのは肩書きではなく、その肩書きで何をどれだけ回していたかのほうです。この記事は、何が引き継がれて何が引き継がれないかを、公式の数字だけで分けたものです。
引き継がれるものを見る「前職アパレル」は、採用側の何の判断材料になるのか
職務経歴書を書き始めると、たいていここで手が止まります。自分の経歴のどこを厚く書けばいいのか分からない。店長だったこと、担当ブランド、売場の坪数、接客が好きなこと。書けることは多いのに、どれが効くのかが分からない状態です。
これは、ひとりで考えても答えが出ません。決めるのは相手側だからです。そして、その相手側が何を見ているかは、国が5年ごとに調べて公表しています。
厚生労働省の「転職者実態調査」には、転職者の賃金や役職を決めるとき、何を考慮したかを事業所に聞いた表があります。卸売業・小売業の行を読むと、こうなっています。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査」図表データの事業所調査・表6「産業・事業所規模、転職者の処遇(賃金、役職等)決定の際に考慮した要素別事業所割合」より、卸売業,小売業の行(複数回答/転職者がいる事業所を100とした割合)。調査の概況ページ。2026年9月12日に確認。
同じ表の全産業の行と並べると、傾向はさらにはっきりします。
| 処遇を決めるとき考慮したもの | 卸売業・小売業 | 全産業(総数) |
|---|---|---|
| これまでの経験・能力・知識 | 74.5 | 74.7 |
| 年齢 | 48.7 | 45.2 |
| 免許・資格 | 34.8 | 37.3 |
| 前職の賃金 | 24.2 | 25.3 |
| 学歴 | 12.1 | 11.0 |
| 前職の役職 | 6.7 | 5.5 |
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出典:同上・表6(単位:%。複数回答のため合計は100%になりません)。
上から2つ目までを見て、気づいてほしいことがあります。経験・能力・知識と年齢は、業種が変わってもほぼ同じ高さです。つまりこれは、アパレルだからどうという話ではなく、中途採用というものの共通の物差しです。
いっぽう、下の2つ——学歴と前職の役職は、はっきり低い。ここが今日いちばん言いたいところです。
前職の役職を考慮する小売の事業所は6.7%。20社に1社強です。肩書きは「どの範囲を任されていたか」を伝える前置きとして書き、主役はその中身に譲ったほうが通ります。
誤解しないでほしいのですが、店長という肩書きが無意味なのではありません。肩書きは、あなたが何を任されていたかの説明にはなります。ただ、それ単体で給料を上げる材料にはなっていない、という話です。
自分の経験がどこで使えるか診断する 所要1分・登録不要・個人情報の入力なし販売職が採られる理由は「即戦力」。専門知識ではない
では、そもそもなぜ会社は販売職の経験者を採るのか。同じ調査には、職種ごとに「転職者を採用した理由」を聞いた表もあります。「販売の仕事」の行と、比較のために「専門的・技術的な仕事」の行を並べます。
| 採用した理由(3つまで回答) | 販売の仕事 | 専門的・技術的な仕事 |
|---|---|---|
| 経験を活かし即戦力になるから | 58.8 | 66.1 |
| 離職者の補充のため | 44.8 | 44.6 |
| 職場への適応力があるから | 25.8 | 26.7 |
| 専門知識・能力があるから | 13.4 | 52.7 |
| 新卒者の採用が困難なため | 12.6 | 10.3 |
| 幅広い人脈を期待できるから | 9.0 | 3.9 |
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出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査」図表データの事業所調査・表4「職種、事業所規模、転職者を採用した理由別事業所割合」より、職種「販売の仕事」および「専門的・技術的な仕事」の総数の行(単位:%/複数回答は3つまで)。2026年9月12日に確認。
販売と専門職で、決定的に違う行が1つあります。「専門知識・能力があるから」が、専門職では52.7%なのに、販売では13.4%しかない。4分の1です。
これは、職務経歴書の書き方に直接はねかえります。ブランドの歴史に詳しいこと、素材や縫製が分かること、トレンドを読めること。アパレルの人がいちばん語りたくなる部分は、採用理由としては8社に1社しか挙げていません。語るなとは言いませんが、そこを主役にすると外します。
代わりに大きいのが、上の3行です。即戦力58.8%、離職者の補充44.8%、適応力25.8%。この3つは、言い換えるとこうなります。
知識を語る書き方
13.4%- ブランドや素材への理解を前面に出す
- 「服が好き」「トレンドに敏感」で締める
- 相手が採る理由と噛み合っていない
すぐ回せることを示す書き方
58.8%- 入って何週間で何ができるかが分かる
- 人が抜けた穴をふさげることが伝わる
- 新しい売場・新しい客層にも慣れる根拠がある
とくに見落とされがちなのが、2行目の「離職者の補充のため」44.8%です。販売職の求人のおよそ半分は、誰かが辞めた穴です。これは冷たい話に聞こえるかもしれませんが、応募する側には追い風です。補充の採用は、急いでいます。「いつから入れるか」「引き継ぎなしで立てるか」が、そのまま評価になります。
どの行き先なら即戦力になるか調べる 8つの質問に答えるだけ・無料会社側も「応募者を測る物差しがない」と言っている
ここまでは、相手が何を見ているかの話でした。もう1つ、同じ調査には応募する側にとって非常に使える表があります。転職者を採用するときに困っていることを、事業所に聞いた表です。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査」図表データの事業所調査・表7「産業・事業所規模、転職者を採用する際の問題の有無、問題別事業所割合」より、卸売業,小売業の行。85.4%は転職者がいる事業所を100とした割合、68.0%と40.8%は「問題がある」と答えた事業所を100とした割合(複数回答)。2026年9月12日に確認。
3つ目を、もう一度読んでみてください。「応募者の能力評価に関する客観的な基準がないこと」を問題に挙げた会社が、4割あります。
これは、採用する側が「この人ができる人なのか、判断する材料がない」と言っているということです。全産業の総数でも38.8%ですから、小売はそれより高い。つまり相手は、あなたを測りたいのに、測る物差しを持っていない状態で書類を読んでいます。
ここが、前職アパレルの人にとっての勝ち筋です。物差しがなくて困っている相手には、物差しのほうを差し出せばいい。それが数字です。
売場に立っていた人は、実は数字を持っています。個人売上、客単価、セット率、消化率、店舗の前年比。これを書くと、相手は初めてあなたを他の応募者と比べられるようになります。比べられる状態にすることが、4割の困りごとへの答えです。
肩書きを、数字に置き換える
やることは単純です。いま職務経歴書に書いてある肩書きと業務内容を、ひとつずつ数字に言い換える。順番にやります。
- 任されていた範囲を数字にする
「店長」ではなく、スタッフ何名、売場何坪、月商いくらの店か。範囲が数字になると、次の会社は自分のどのポジションに当てはめるかを判断できます。ここが役職の代わりになります。
- 自分がやった結果を数字にする
個人売上、客単価、セット率、消化率、前年比。全部そろえる必要はありません。2つか3つ、はっきり覚えているものだけで十分です。
- 数字のあとに、そうなった理由を1行足す
数字だけだと、たまたま良い立地だっただけかもしれない、と読まれます。「何をしたからそうなったか」を短く添えると、再現できる能力として読まれます。
- 次の会社の言葉に翻訳する
セット率は「1人あたりの購入点数を増やす工夫」、消化率は「値引きせずに在庫を売り切る力」です。アパレルの外に出るなら、社内用語のままにしない。
手元に数字が残っていない場合もあります。辞めてから時間が経っていれば、なおさらです。そのときは、覚えている範囲で「だいたい」と書くほうが、何も書かないよりましです。ただし、盛らないこと。面接で必ず聞かれます。
年収は、自動では引き継がれない
もう一度、最初の表に戻ります。前職の賃金を考慮したと答えた小売の事業所は、24.2%でした。
これは、期待と不安の両方に効く数字です。
いい面
- いまの給料が低くても、それがそのまま持ち越される会社は4社に1社
- アパレルの給与水準に引きずられずに提示される可能性がある
- 経験・能力・知識(74.5%)のほうが、はるかに大きな判断材料になっている
きびしい面
- 前職より上がることも、同じ理由で保証されない
- 「前職がこうだったので」という交渉は、相手の4分の1にしか響かない
- 結局、経験を言葉にできないと金額の根拠がなくなる
言いたいことは1つです。年収を上げたいなら、前職の金額を持ち出すのではなく、経験・能力・知識のほうを厚くする。相手の74.5%がそこを見ているのだから、そこで勝負したほうが確率が高い、というだけの話です。
そしてこれは、在職中に準備したほうが有利になる理由でもあります。数字は、辞めたあとには取りに戻れません。いま売場にいるなら、今月の自分の数字を控えておくだけで、後の書類が変わります。
自分はいま、どこにいるか
最後に、書類を出す前のチェックです。
3つ以上あてはまるなら、書き直したほうが通ります
- 職務経歴書の見出しが「店長」「販売スタッフ」など肩書きで終わっている
- 自分の売上や客単価の数字を、1つも書いていない
- 「服が好き」「接客が好き」が志望動機の中心になっている
- 任されていた売場の規模(人数・坪数・月商)を書いていない
- アパレルの社内用語をそのまま使っている
- いまの年収を基準に、次の希望額を決めている
→ 3つ以上なら、応募先を増やすより先に、書類の中身を数字に置き換えるほうが早く効きます。
ここまでを一言にすると、こうなります。前職がアパレルであること自体は、有利でも不利でもありません。引き継がれるのは経験・能力・知識で、それを数字にできた人から順に、相手が比べられる土俵に乗ります。
どの行き先なら自分の経験が使えるのかは、売場のどの部分を長くやってきたかで変わります。次のページで、8つの質問に答えると向いている方向が出ます。
アパレルの経験がどこで使えるか診断する 所要1分・登録不要・個人情報の入力なし