この記事に出てくる増減率・販売額・区分の定義は、経済産業省「商業動態統計」の公式ページと統計表を実際に開いて読んだ数字だけを載せています。まとめサイトや業界ニュースの解説は使っていません。公式で確認できなかったことは「確認できなかった」とそのまま書きました。筆者は元アパレル販売員で、いまはファッションバイヤー兼古物商として働いています。確認日は本文の出典に書きました。
「アパレル業界は縮んでいる」は、国の統計では確かめられません。縮んでいるのは業界ではなく、売場です。それも紳士服売場という1か所に集まっています。
服の専門店の販売額は増えています。百貨店・総合スーパーも、店ぜんたいの売上は増えています。それでもその中の衣料品だけが減り、いちばん深く減っているのが紳士服・洋品でした。この記事は、その分かれ目を経済産業省の数字だけで並べたものです。「業界に入るか」ではなく「どの売場に入るか」の話になります。
その分かれ目を見るまず、「アパレル業界が縮んでいる」を統計で探してみる
アパレル業界に入ろうとすると、まわりから必ず同じことを言われます。「あの業界、これから縮むよ」。
それを確かめられる公式の統計があります。経済産業省の商業動態統計です。全国の小売店の販売額を毎月集めている国の基幹統計で、政府の月例経済報告やGDPの四半期統計にも使われています。
まず、服を売る専門店の数字を見ます。統計の中では「織物・衣服・身の回り品小売業」という名前で、日本標準産業分類の57にあたります。セレクトショップ、路面店、ファストファッション、駅ビルのテナント——服を主に売っている店はここに入ります(靴・かばんの専門店も同じ分類です)。
出典:経済産業省「商業動態統計」第1部第1表(2026年1月分確報の長期データ)。2026年9月12日に確認。
服の専門店は、2年続けて増えています。小売業ぜんたいの伸び(+1.4%)ともほとんど同じです。「アパレル業界が縮んでいる」は、この統計では確かめられませんでした。
ちなみに2023年は-2.2%でした。そこから2024年に+2.7%、2025年に+1.3%と戻しています。長い下り坂の途中という形にはなっていません。
縮んでいるのは業界ではなく、売場だった
では、まわりの人が言う「縮んでいる」は、どこを見て言っているのか。
同じ商業動態統計には、百貨店と総合スーパーだけを切り出した集計があります(第3部)。こちらは商品の区分ごとに販売額が出ていて、衣料品の中がさらに「紳士服・洋品」「婦人・子供服・洋品」などに分かれています。
並べると、こうなります。

上の2本と下の3本で、向きが逆になっています。
とくに見てほしいのは2段目と3段目の関係です。百貨店・総合スーパーは、店ぜんたいの販売額が+2.8%で増えています。食品も家電も含めた全体です。つまり客が来ていないわけではありません。それなのに、同じ店の中の衣料品だけが-6.6%。紳士服・洋品は-7.9%です。
来た客が、紳士服売場で買っていない。統計が示しているのはそこでした。
| 百貨店+総合スーパー | 2023年 | 2024年 | 2025年 | 2025年 (既存店) |
|---|---|---|---|---|
| 店ぜんたい | +4.6% | +3.6% | +2.8% | +1.5% |
| 衣料品 計 | +9.1% | +4.9% | -6.6% | -6.1% |
| 紳士服・洋品 | +4.8% | -1.1% | -7.9% | -7.0% |
| 婦人・子供服・洋品 | +8.4% | +3.5% | -4.8% | -4.1% |
| 身の回り品 | +14.5% | +10.9% | -8.4% | -8.3% |
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出典:経済産業省「商業動態統計」第3部第1表。既存店とは、当月および前年同月とも調査の対象になっている事業所だけで計算した数字です。2026年9月12日に確認。
「既存店」の列を足したのは、店の数が増えたり減ったりした影響を外した数字も見たいからです。外しても結論は変わりません。紳士服・洋品は-7.0%でした。新しく店を閉めたせいで減って見えているわけではない、ということです。
紳士服・洋品は、2年続けて衣料品の中でいちばん下
上の表をもう一度、横ではなく縦に見てください。
2024年の列です。このとき衣料品計は+4.9%、婦人・子供服は+3.5%、身の回り品は+10.9%。どれも増えています。その中で紳士服・洋品だけが-1.1%で、ひとつだけマイナスでした。
つまり紳士服・洋品は、周りが伸びていた年にすでに減り始めていて、2025年にさらに-7.9%まで落ちています。2年続けて、衣料品の中でいちばん下です。
ここで「紳士服・洋品」が何を指すのかを確かめておきます。統計の商品分類表に、内容の例示が書かれています。
出典:経済産業省「商業動態統計」利用上の注意(商品分類表・百貨店・スーパー)。装身具は宝石・貴金属製のものを除きます。2026年9月12日に確認。
スーツだけの話ではありません。ワイシャツ、ネクタイ、靴下、下着まで含んだ区分が-7.9%です。百貨店の紳士フロアで売っているものの、ほぼ全部が入っています。
いっぽうで、こういう見方もできます。婦人・子供服は-4.8%で、紳士服より浅い。同じ店の同じ時期に、メンズのほうが3ポイント以上深く減っている。これは景気や物価だけでは説明がつきにくい差です。
同じ「紳士服」でも、百貨店と総合スーパーで3倍以上ちがう
ここがこの記事でいちばん実務に効くところです。
「百貨店・総合スーパーの紳士服が-7.9%」と書きましたが、これは2つの業態を足した数字でした。分けると、まったく違う景色になります。
| 紳士服・洋品の前年比 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| 百貨店 | +7.0% | +2.8% | -4.3% |
| 総合スーパー | +1.3% | -7.7% | -14.8% |
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出典:経済産業省「商業動態統計」第3部第1表。2026年9月12日に確認。
2025年で比べると、百貨店が-4.3%、総合スーパーが-14.8%。同じ「紳士服・洋品」という区分なのに、減り方が3倍以上ちがいます。
2年分を重ねて計算すると、差はもっと開きます。
- 百貨店の紳士服は、2年でほぼ横ばい
2024年が+2.8%、2025年が-4.3%。この2つを重ねると2年で約1.6%減です。落ちてはいますが、まだ「ほぼ横ばい」の範囲です。
- 総合スーパーの紳士服は、2年で約2割減
2024年が-7.7%、2025年が-14.8%。重ねると2年で約21%減。5分の1が消えた計算になります。しかも同じ期間、総合スーパーは店ぜんたいでは+2.6%、+4.7%と増えています。
2つ目がとくに重い数字です。店には客が来ていて、売上も増えている。その店の中で、紳士服売場だけが2年で2割なくなった。これは業界の問題ではなく、その売場の問題です。
ここで「総合スーパー」が何を指すのかも押さえておきます。統計の定義はこうです。
百貨店(統計上の定義)
- 日本標準産業分類の「百貨店,総合スーパー(561)」のうち、下のスーパーに該当しない事業所
- 売場面積が東京特別区と政令指定都市で3,000㎡以上、その他の地域で1,500㎡以上
- セルフサービス方式が売場面積の50%未満=販売員が付く売り方が主
スーパー(統計上の定義)
- 売場面積の50%以上にセルフサービス方式を採用している事業所
- かつ売場面積が1,500㎡以上
- セルフが半分以上=販売員が付かない売り方が主
出典:経済産業省「商業動態統計」調査の概要(調査票・注1/注2)。どちらも従業者50人以上の小売事業所が対象です。2026年9月12日に確認。
分け方の軸はセルフサービスかどうかでした。そしてこの軸が、そのまま減り方の差と重なっています。販売員が付く売場(百貨店)はほぼ横ばい、販売員が付かない売場(総合スーパー)が2年で2割減。
ここは求人を選ぶときに直結します。アパレル販売として応募するなら、その求人の職場がどちらの業態かで、売場の先行きが違うということです。同じ「アパレル販売」「紳士服担当」という求人票の文字からは、この差は読めません。
この数字で読み違えやすい3か所
ここまでの数字を自分で確かめたい人のために、つまずくところを先に書いておきます。ひとつ目は、筆者も最初に間違えたところです。
- 販売額の実額を、去年と引き算してはいけない
2025年1月分から母集団名簿が変更され、2025年3月に水準の調整が実施されています。そのため2024年の販売額と2025年の販売額を直接引き算すると、統計の作りが変わった分まで「減った」として出てきます。実際にやると服の専門店が「15%減」と出ますが、経済産業省が公表している増減率は+1.3%です。増減率は経済産業省がリンク係数でつないで公表しているので、そちらを使います。
- 「ネットに移っただけ」では説明できない
販売額にはその店のインターネット通販の分も含まれます。店を持たずネット通販だけをしている会社は「無店舗小売業」という別の業種に入りますが、こちらは2025年に-1.3%でした(2024年は+4.8%)。この統計の中では、服がネット通販側で伸びている形にはなっていません。
- これは販売額の統計で、求人の統計ではない
商業動態統計に従業員数や求人数の推移はありません。売場の販売額が減ったことと、その売場の求人が減ることは、この統計からは結びつけられません。確認できなかったので、ここは書きません。分かるのは「その売場の売上が2年続けて減っている」という事実までです。
アパレル業界の求人票で、先に見る4つ
ここまでの数字から、求人票を見る順番が決まります。ブランド名や仕事内容より先に、この4つを確認します。
アパレルの求人票で先に確認すること
- 勤務先の業態はどれか(百貨店の中のテナント/総合スーパーの中/路面店・駅ビルの専門店)
- 扱うのは紳士服か、それ以外か(ワイシャツ・ネクタイ・靴下も紳士服・洋品に入る)
- その会社は自社でネット販売をしているか(店舗とECの両方に配属の道があるか)
- 配属先は既存店か、新しく開ける店か
→ 上の2つが「総合スーパー」「紳士服」の組み合わせになるときは、統計でいちばん減っている売場です。入らない理由にはなりませんが、知らずに入るのは避けたいところです。
1つ目の業態は、求人票に書かれていないことがよくあります。勤務地の欄に商業施設の名前だけが書かれている場合は、その施設が百貨店なのか総合スーパーなのかを自分で調べることになります。売場面積の半分以上がセルフサービスなら、統計上はスーパーです。
2つ目は、面接で聞ける内容です。「紳士服の担当ですか、それとも婦人・子供服も見ますか」という質問は、配属の確認として自然に聞けます。
3つ目を入れたのは、逃げ道の話です。店舗の売上が落ちたときに、社内でECへ移れるかどうかで選択肢の数が変わります。自社でネット販売をしていない会社だと、その道がありません。
では、どこから入るか
この記事で確かめられたことを、もう一度まとめます。
- 「アパレル業界が縮んでいる」は確かめられなかった
服の専門店の販売額は2024年+2.7%、2025年+1.3%。小売業ぜんたい(+1.4%)とほぼ同じ伸びです。
- 縮んでいるのは百貨店・総合スーパーの衣料品売場
店ぜんたいは+2.8%で増えているのに、衣料品計は-6.6%。客は来ていて、衣料品だけが売れていません。
- その中でいちばん深いのが紳士服・洋品
2025年は-7.9%。婦人・子供服(-4.8%)より3ポイント以上深く、2024年の時点で唯一のマイナスでした。2年続けて衣料品の最下位です。
- 同じ紳士服でも、業態で3倍以上ちがう
百貨店は-4.3%で2年ではほぼ横ばい。総合スーパーは-14.8%で、2年で約2割減。分け目はセルフサービスかどうかでした。
ここから言えるのは、ひとつだけです。「アパレル業界に入るかどうか」で悩む必要はあまりなくて、悩むべきは「どの業態の、どの売場に入るか」でした。統計は業界ではなく売場の単位で分かれています。
そして、業態と売場が決まれば、その次は職種の話になります。同じ業界の中でも、職種を変えたときにだけ金額が動くことは別の記事で統計を並べて確かめています。
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