※この記事の年収・従業員数は、すべて各社の有価証券報告書のPDFを実際に開いて、「5【従業員の状況】」に書かれている値だけを載せています(確認日:2026年9月7日)。年収ランキングサイトやまとめ記事の数字は使っていません。公式の開示書類で確認できなかった会社は、この記事の表に入れていません。筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在はファッションバイヤー兼古物商として仕入れと買取の仕事をしています。
「アパレルで給料が高い会社」の1位に出てくる1,496万円は、グループ4,108人のうち12人を数えた平均です。高いのは会社ではなく、数えている人が違うだけのことがあります。
上場アパレル5社の有価証券報告書を実際に開いて、平均年間給与と「その数字が何人を対象にしているか」を並べました。5社のうち、店舗に立つ社員まで含んだ数字は1社だけでした。求人票と見比べる前に、この見分け方を先に持っておいてください。
まず5社の数字を見る上場アパレル5社の平均年間給与を、開示書類から並べる
まず数字です。すべて各社の有価証券報告書「5【従業員の状況】」の(2) 提出会社の状況に書かれている値で、いちばん右の「対象の割合」だけが、こちらで割り算して足した列です。
| 会社 | 事業年度 | 平均年間給与 | 対象の従業員数 | グループ全体 | 対象の割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| TSIホールディングス | 第15期・2026年2月期 | 1,496.4万 | 12 | 4,108 | 0.3% |
| ファーストリテイリング | 第64期・2025年8月期 | 1,250.6万 | 1,572 | 59,522 | 2.6% |
| オンワードホールディングス | 第79期・2026年2月期 | 657.2万 | 117 | 6,527 | 1.8% |
| ユナイテッドアローズ | 第37期・2026年3月期 | 502.0万 | 3,825 | 3,904 | 98.0% |
| アンドエスティHD | 第76期・2026年2月期 | 433.2万 | 506 | 6,936 | 7.3% |
← 横にスクロールできます(従業員数はいずれも臨時雇用者を除いた就業人員)

金額の順に並べると、上から順に高い会社が並んでいるように見えます。ところが右端の列を見ると、話がまったく変わります。1,496.4万円は12人の平均で、502.0万円は3,825人の平均です。同じ「平均年収」という言葉で並んでいますが、数えているものが違います。
出典:TSIホールディングス 第15期 有価証券報告書/ファーストリテイリング 第64期 有価証券報告書/オンワードホールディングス 第79期 有価証券報告書/ユナイテッドアローズ 第37期 有価証券報告書/アンドエスティHD 第76期 有価証券報告書(いずれも2026年9月7日にPDFを確認)
なぜ1,000万円台が出るのか|「提出会社」というひとことが効いている
有価証券報告書の従業員の欄は、必ず2段構えになっています。(1) 連結会社の状況がグループ全体の人数で、(2) 提出会社の状況が、その報告書を出した会社1社だけの人数です。そして平均年間給与が書かれているのは、下の「提出会社」のほうだけです。
ここで効いてくるのが会社のかたちです。持株会社(ホールディングス)は、店舗も倉庫も持ちません。事業は傘下の事業会社が持っていて、持株会社に残るのは経営と管理の機能だけです。つまり「提出会社」の中身が、経営陣に近い少人数になります。
出典:TSIホールディングス 第15期 有価証券報告書「5【従業員の状況】」(2026年9月7日確認)
平均年齢56.7歳、平均勤続18.7年、12人。この3つが並んだ時点で、これが売場やオフィスで働く一般社員の姿ではないことが分かります。会社が数字を隠しているわけではありません。開示のルールどおりに「提出会社の従業員」を書いているだけで、たまたまその会社に12人しかいない、というだけの話です。
比べても意味がありません。あなたが受けようとしているのは、たいてい傘下の事業会社です。持株会社の12人や117人の平均は、その事業会社の給与テーブルとは別のものです。
ファーストリテイリングの1,250.6万円も同じ構造
ファーストリテイリングの提出会社の従業員は1,572人、グループ全体は59,522人(ほかに準社員・アルバイト社員が年間平均で50,468人)です。提出会社が占める割合は2.6%。平均勤続年数は5年9ヶ月と短く、これも売場を長く務めた人の集団ではないことを示しています。
ユニクロの店舗で働く人は、株式会社ユニクロなど別の会社に所属しています。有価証券報告書にはその会社ごとの平均年間給与は載りません。だから「ユニクロの店長の年収」を有価証券報告書から読むことはできません。載っていないものは、この記事でも書きません。
5社のうち、そのまま読めるのは1社だけだった
表の中で1社だけ、対象の割合が98.0%という行があります。ユナイテッドアローズです。この会社は持株会社を作らず、事業会社そのものが上場しています。だから提出会社=グループのほぼ全員になり、店舗に立つ社員も同じ母数に入ります。
持株会社の数字
1,496.4万- 対象は12人(グループの0.3%)
- 平均年齢56.7歳・勤続18.7年
- 店舗の社員は別会社にいる
事業会社そのものの数字
502.0万- 対象は3,825人(グループの98.0%)
- 平均年齢35.7歳・勤続10.2年
- 売場に立つ社員も母数に入る
出典:両社の有価証券報告書「5【従業員の状況】」(2026年9月7日確認)。決算期はTSIが2026年2月期、ユナイテッドアローズが2026年3月期です。
数字だけ見れば約3倍の差があります。ですがこの2つは比べられません。片方は12人の話で、もう片方は3,825人の話だからです。もし比べるなら、TSIの傘下にある事業会社の給与と、ユナイテッドアローズの給与を比べる必要がありますが、傘下の事業会社ごとの平均年間給与は有価証券報告書に載っていません。
販売員だったころ、同期が「うちの親会社の平均年収」を見せてきて、その数字と自分の明細がまるで結びつかず、二人で首をひねったことがあります。あとになって分かったのは、その平均が数えていたのは本部の、しかもごく一部の人たちだったということでした。数字が間違っていたのではなく、私たちが自分の会社の数字だと思い込んでいただけでした。
同じ会社でも、去年と今年で数字の意味が変わることがある
いちばん分かりやすい例が、表のいちばん下にあるアンドエスティHD(旧アダストリア)です。この会社は2025年9月1日に会社分割を行い、持株会社体制へ移りました。その前後で、有価証券報告書に載る数字はこう変わっています。
| 提出時点 | 会社名 | 提出会社の従業員数 | 平均年齢 | 平均勤続 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第75期・2025年2月28日現在 | アダストリア | 4,919 | 33.3歳 | 9.1年 | 453.4万 |
| 第76期・2026年2月28日現在 | アンドエスティHD | 506 | 38.4歳 | 10.7年 | 433.2万 |
← 横にスクロールできます
出典:アダストリア 第75期 有価証券報告書/アンドエスティHD 第76期 有価証券報告書(2026年9月7日にPDFを確認)
1年で対象人数が4,919人から506人へ減っています。第76期の報告書には、当事業年度中に従業員が4,413名減少したのは主として2025年9月の会社分割によるものだ、と注記されています。会社が縮んだのではなく、報告書が数えている範囲が変わったということです。
自分が受ける会社の数字を、自分で開く3ステップ
ここまでの話は、覚えるものではなく手順にしてしまうほうが早いです。会社名がひとつ決まれば、10分で終わります。
- その会社が上場しているかを確かめる
上場していなければ有価証券報告書はありません。受ける会社が非上場なら、この方法は使えないので、求人票と面接で聞くしかありません。持株会社の傘下にある事業会社も、たいてい非上場です。
- 会社の公式サイトのIR(投資家向け情報)から有価証券報告書のPDFを開く
「IRライブラリ」「IR資料室」といった名前のページにあります。まとめサイトの転載ではなく、会社が自分で出しているPDFを開いてください。最新のものを1つ選べば十分です。
- 「5【従業員の状況】」の(2) 提出会社の状況を見る
ここに従業員数・平均年齢・平均勤続年数・平均年間給与が並んでいます。すぐ上にある(1) 連結会社の状況の人数と見比べて、割り算してください。その割合が、その平均年収をどこまで信じていいかを決めます。
次のうち2つ以上が当てはまったら、その平均年収はあなたの参考になりません
- 会社名に「ホールディングス」「HD」が入っている
- 提出会社の従業員数が、連結の従業員数の半分に満たない
- 提出会社の平均年齢が45歳を超えている
- あなたが応募しようとしているのは、その会社ではなく傘下の事業会社である
→ 2つ以上なら、その数字は本部あるいは経営層の数字です。求人票の想定年収のほうを見てください。
提出会社が連結の8割以上を占めているなら、その平均年間給与は現場を含んだ数字です。ユナイテッドアローズの502.0万円は、そういう数字にあたります。求人票の想定年収と突き合わせる価値があります。
持株会社の数字が高いことは、傘下で働く人の給料が高いことも低いことも意味しません。判断材料が無い、というのが正しい結論です。そこは面接で、支給実績の月数を聞いて埋めるところです。
では「給料が高いアパレル」はどう探せばいいのか
正直に書きます。会社ごとの平均年収を並べて上から選ぶ、というやり方はうまくいきません。ここまで見たとおり、公開されている数字は会社のかたちに強く左右されていて、同じものさしになっていないからです。
使えるのは次の2つです。ひとつは公的統計で職種ごとの水準を見ること。もうひとつは求人票の条件を、自分の明細と同じ単位で比べることです。前者は業界全体の地図で、後者は目の前の1社の話です。
- 会社ではなく職種で見る
厚生労働省の賃金構造基本統計調査には職種別の集計があり、販売店員という区分があります。同じ年齢・同じ勤続年数でも職種の間に大きな差が出ることは、別記事で数字を並べています。会社選びより先に、職種の軸を確認するほうが効きます。
- 求人票は「賞与の支給実績」で見る
「賞与年2回」という表記からは何も分かりません。直近の支給が基本給の何ヶ月分だったかを面接で聞けば答えは返ってきます。年収の差は、月給よりも賞与で付いていることが多いからです。
- 比べるなら年収どうし、月給どうし
求人票の想定年収には賞与も残業代も見込みで入っていることがあります。自分の「賞与込みの年収」を先に出しておかないと、上がったつもりで下がります。
