ブランド

アンリアレイジを知る。デザイナー森永邦彦が仕掛ける新たなブランドの”かたち”。過去コレクションとともに

服をつくる時に定規を使いますが、その定規がもし狂っていたら
できあがった服はおかしな縮尺のものになります。
服をつくる前にまず面白い基準の定規をつくって、
それで服をつくってみようと思ったわけです。

ANREALAGEデザイナー 森永邦彦 『A LIGHT UN LIGHT』(パルコ出版)から

洋服は人のかたちに合わせて作られているもの。

しかしアンリアレイジの洋服に対する捉え方は斜め上を行っていて、まず『キーワード』に洋服を1回当てはめてかたちを作り、完成した洋服から『キーワード』を脱がせてはじめて『人体』に着せる。
だからこそこのブランドの創作は人々に驚きを以て迎えられています。
いつも持ち歩くのは『中学英単語1850』。
単語から一度洋服と関係のない場所へ思考を飛ばし、抽象化したアイデアを洋服の枠にはめていく作業。

頭があり、胴体があり、肩から両の腕があって、一対の足がある。
人体のかたちがそうである以上、洋服のデザインは限られたものにならざるを得ません。
世のデザインはすぐに”洋服のかたち”を追うのを諦め、素材、柄、崩し、ミックスで個性を表現するようになりました。

布を身体に巻きつけただけの古代エジプトにはじまり、19世紀ヨーロッパで全世界のファッションを掌握していたパリ・オートクチュールの隆盛、第一次大戦とアール・デコ文化が後押しした女性の社会進出に伴う直線的なファッション、戦後の寵児となったクリスチャン・ディオール、映画産業と音楽がストリートカルチャーを生み、クレージュがミニスカートを女性へと手渡し、真っ黒で穴だらけの洋服をファッションの世界最前線パリへ持ち込んで「これがモードだ」と世界へ突きつけたコムデギャルソンがいました。

これらのファッションの悠久なる歴史の中の、いったいどのあたりなのでしょう?
洋服のかたちが一応の終息を得た瞬間がどこかにあったのです。

現在、デザイナーの多くは、『ファッションウィークに主役として登場するようなトップブランド』が世に提案したかたちをヒントにしてデザインをします。

現在のトップ・デザイナーの多くは、過去に既に出た洋服をリバイバルして、そこに現代風な味つけを施し、最終的にブランドのテーマに沿ったデザインを発表します。

アンリアレイジはそんな―――誰もが去った戦場に一人立ち、洋服の可能性を探し続けている日本のファッションブランドです。
2014年、パリ・オートクチュール組合サンディカの正式登録を受け、世界のブランドと肩を並べてデザインを発表し続けている日本が世界に誇るブランドなのです。

ブランドコンセプト

『神は細部に宿る』をブランドコンセプトに掲げるアンリアレイジは、時代に逆行する存在でした。
ブランド創立期にデザイナーの森永邦彦が作った洋服は、1着に途轍もない時間を費やす1点もののオートクチュールでした。ジャケットに手仕事で3万個のボタンを縫いつけたスーツなど。

基本的に1点ものの洋服は値段が高く、しかも他より徹底的に微に入り細にこだわった為、芸術的価値はあれどとても商業ベースとは言えませんでした。これに値段をつけようと思えばとんでもない額になってしまう。

最初はお金もなく人脈もなく、だから普通のもの作りでは勝負できなかった。
そこで森永が「誰もやらないことをやろう」と始めたのが、大量生産大量消費の社会に背を向けた狂気の洋服制作でした。
みんなと同じことをやっていても勝負できないから、自分にしかできないことをやる。
その答が『誰も見向きもしない細部と、誰もが無駄と切り捨てる時間にこだわること』。

このブランドコンセプトは、無名の時代からパリコレに参加するようになった現在まで変わらず続いています。

パッチワーク

アンリアレイジを象徴するキーワード『パッチワーク』。

異素材・違う柄の布切れを縫い合わせて1枚の生地を作ること。
パッチワークは”趣味の洋裁”というイメージが強いですが、アンリアレイジの場合はわざわざ布を小さいピースに切り分けてからそれらを何百回とつぎはぎして大きな1枚布に仕上げます。
『神は細部に宿る』の精神の通り、その細かさと執念は見た目で”パッチワーク”という一般的イメージを大きく覆します。
職人が手仕事で縫いつける為オーダーは半年待ち、特に海外で根強い人気があるといいます。

『手仕事』から『コンセプト』へ

誰にも真似できない狂気の洋服作りは芸術的志向の高いものです。

ですが洋服作りを商業の世界でやっていこうとすれば、自分たちと一部の洋服マニアを喜ばせている領域から出ていかなくてはなりません。アンリアレイジもその転換点にありました。
洋服作りが商業になる以上は、多少なりとも社会に貢献しなければならない。
一部の人だけじゃなく多くの人の目に届き、よりマスを感動させるようなクリエーションが求められていました。

  • 2003-04AW 『何の変哲もない』製図の基本形となる原型を歪めた服
  • 2004SS 『WHERE FLONT IS?』前も後ない、両方が前と後の服
  • 2004-05AW 『檸檬』表地と裏地の大きさを変え、無理に繋いだ服
  • 2005SS 『きれひと賛歌』身頃を4分割したショート丈にもロング丈にもなる服
  • 2005-06AW 『スズメノナミダ』ブランドコンセプトに忠実な細かい手作業の服
  • 2006SS 『バター』パターン、装飾、デザインが煩雑に混ざり合った服
  • 2006-07AW 『カノン』AからZのかたちをした服。AZはアンリアレイジのロゴでもある
  • 2007SS 『祈り』手作業の限界に挑んだ服。数百枚のレースを使ったトレンチコートなど
  • 2007-08AW 『遥か晴る』パッチワークとさらなる手仕事の追及
  • 2008SS 『ノーモア』黒い生地に白糸を一本一本縫いこむことでできた白のワンピースなど
  • 2008-09AW 『夢中』ひなまつりをモチーフにした服

ここまでシーズンテーマから読み取れるように、文学的・芸術的志向のコレクションが続きました。

2008年最後のコレクションで手仕事の限界を見て取った森永は、ここからクリエーションを大きく転換します。

これまでひたすら生地に向き合って執念で取り組んできた時間を、アイデアを生み出す時間に充てるように変化しました。
生地を縫ったり剥いだりする手仕事から、洋服の構造そのものについてのデザインへ。

ここからアンリアレイジは世界へと羽ばたいていきます。

最初の変化は”かたち”へ向きます。

アンリアレイジ 独自の方向性へ

〇2009SS 『〇△□』

立方体に着せたトレンチ、球体が着たワイシャツ。
人間の身体に合わせて洋服を作るという大前提を見直し、”かたち”そのものにぴったり収まるようデザインしたものを脱がせ、人間が身に纏うコレクション。
球体が着たシャツはブランドのアイコン的存在の『ボールシャツ』。

〇2010-11AW 『WIDESHORTSLIMLONG』

日本人の標準体型から横250%・縦70%に潰したWIDE+SHORTと、横80%・縦150%に吊り上げたSLIM+LONGの洋服。
余った布はドレープになり、足りない丈はショート丈になる。

「全く違う方向から攻めないと、今のファッション界は変わらない」(SWITCH VOL.32 真鍋大度との対談より抜粋)とデザイナー森永邦彦が言っているように、モードに倣っていたのでは新しいクリエーションは見えてこない。ファッションで”驚き”を与えたいという年2回のコレクションでは、こうした彼の”脱モード”の精神が度々現れます。

現代のマルタン・マルジェラ

アンリアレイジのデザインには、多くのデザイナーに影響を与えているマルタン・マルジェラに相似点を見出すことができます。
マルジェラが得意とするデコンストラクション(解体再構築/古着をパーツにわけ、繋ぎ合わせて新たなシルエットを作る)。

〇マルタン・マルジェラは1990年SSシーズンに200%に拡大した洋服を発表しています。
アンリアレイジでは先の『WIDESHORTSLIMLONG』コレクションで、ウエストを250%にしたパンツが。

〇2001SSで発表されたオーバーサイズのスカートと、ブランドのラベルをパッチワークさせたトップス

(参考 FIGARO.jp)マルタン・マルジェラ

パッチワークという再構築はアンリアレイジが最も得意とするところ。
たっぷりウエストを取ったスカートは前述のワイドパンツに通じています。

マルジェラの初期のデザインは『破壊』と評されていましたが、『洋服の定式/常識の破壊』という点で森永邦彦という日本のデザイナーはマルジェラと重なるのですよね。
ただ森永邦彦が『現代の』マルタン・マルジェラだという表現はもちろん、ただマルジェラと同じことをやっているという安易な想像を否定するものです。
現在にはあり、過去にはなかったものがある。
コンセプトが”かたち”へ向いたアンリアレイジは、その追及を続けながらも時代が生んだ新しい武器『テクノロジー』を手にしました。

この世のどこにもないモード

〇2013AW 『COLOR』色が変わる服

フォトクロミック分子という、太陽光に反応して分子構造を変える技術を採用。
真っ白な洋服が、陽の下に出ると鮮やかな色と模様を浮かべます。
シンプルな洋服でランチを頂き、カラフルな洋服でお出かけ。着替えは必要ありません。

〇2014SS 『SIZE』サイズを調節できる服

洋服についたダイヤルのようなボタンを回すことで身頃が絞られて、SからLまで大きさが変わる。
1着のワンピースを子どもも大人も着ることができる。
実際にかたちが変化するシーンでは、コレクションショーでどよめきが起こりました。

〇2014SSAW 『SEASON』常に32℃を保つ服

アウトラストという温度維持素材を使い、デザインに拠らず人間が快適に感じる温度を保つ洋服を発表。
人体をサーモグラフィーにかけた時のような、色が温度を示すメタファーを持った色彩にも注目です。

〇2020SS 『ANGLE』写真の中の遠近感2Dをそのまま3Dに置き換えた服

現在最新コレクションでは、テクノロジー主眼の路線からまた新しいベクトルへ向かっています。
少し左へ向いた写真のように見えるトレンチコート。
マルタン・マルジェラの得意技である”トロンプ・ルイユ”(だまし絵)の手法と重なります。

洋服の可能性が広がっていく

アンリアレイジのデザインの着眼点がそもそもの”人の身体”から外れている部分もあって、(全てがそうというわけじゃありませんが)リアルクローズに適さない洋服もあります。
日常着するならカーディガンがおすすめです。

靴と樹脂アクセサリーもかわいいのでこちらも。

かつて新進気鋭のコムデギャルソンが「ボロルック」と言われて大批判を食らったように、現在見えている価値観が10年20年後に通じるということはまあありえないでしょう。

アンリアレイジのデザインは目に奇抜ですが、それら1つ1つが未来のデザインの重要なヒントになり、ひいては現在の川久保玲やマルタン・マルジェラのような功績を遺す人物になるかもしれません。

1つ確かなのは、このブランドがなければ開かなかった扉が次々に開け放たれているということ。
コレクションの写真を見るだけでも楽しい。
年2回のコレクションで「次はなにを出してくるか!?」と追いかけてみるのも楽しいですよ。

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