※この記事に出てくる制度・条文・日数は、すべて厚生労働省とハローワークの公式ページ、および法令データ提供システム(e-Gov)の条文を実際に開いて確認したものです。特定の企業・転職サービスから依頼を受けて書いたものではありません。筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在は古物商として買取業を営んでいます。人を採る側として応募者の話を聞く立場も経験しています。
「退職理由」は3か所にあります。このうち1か所だけがお金に直結し、そこの書き方で必要な在籍月数が12か月から6か月に変わります。
退職理由を考えるとき、ほとんどの人は「面接で何と言うか」だけを考えます。けれど退職理由を書く場所は3つあり、それぞれ決める人がちがい、間違えたときに失うものがちがいます。とくに在籍1〜2年の第二新卒にとっては、2番目の「離職票に書かれる理由」が、失業手当が出るか1円も出ないかの分かれ目になります。3つを分けて用意するところから始めてください。
3か所の違いを見る「退職理由」は3か所にある。同じ言葉を使い回すと損をします
新卒で入った会社を辞めると決めたとき、まず詰まるのが「退職理由をどう言うか」です。検索すると例文がたくさん出てきます。ところがその例文は、たいてい面接で話す用の文章です。
実際に退職理由を書く場面は、3回あります。
| どこに書くか | 最後に決めるのは | 間違えたときに失うもの | 根拠 |
|---|---|---|---|
| ①会社に伝える退職理由 退職届・上司への申し出 | 自分 | ほぼ何も失わない | 民法627条/労基法22条 |
| ②離職票に載る離職理由 離職票-2の⑦欄 | ハローワーク | 失業手当そのもの | 雇用保険法の運用 |
| ③面接で話す転職理由 応募先に伝える | 応募先の採用担当 | 選考の通過率 | — |
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この3つは、目的がまったく別です。①は手続き、②はお金、③は売り込みです。ところが「退職理由」という同じ名前で呼ばれているので、①で言った言葉をそのまま②や③に流用してしまう人がとても多い。そしていちばん損が大きいのは②です。
出典:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」Q2・Q20/厚生労働省「離職された方へ -離職票-2の離職理由欄等(⑦欄及び⑰欄)の記載方法について-」より筆者が抜き出し
在籍が1年ちょうどに届いていない人にとって、この12か月と6か月の差は「出るか/1円も出ないか」の差です。そしてどちらになるかは、離職票に書かれた理由で決まります。
①会社に伝える退職理由は、法律が理由を求めていません
まず、いちばん気が重い①から片付けます。結論から言うと、ここはいちばん短く済ませていい場所です。
期間の定めのない正社員が辞めるときの根拠になるのは、民法の627条です。条文はこうなっています。
読んでいただくと分かりますが、この条文には「正当な理由があるときは」「理由を説明したうえで」といった条件がひとつも書かれていません。「いつでも」と書いてあるだけです。つまり法律の側は、辞める理由の中身を問題にしていません。
もうひとつ、労働基準法の22条も見ておきます。退職したあと、会社に証明書を出してもらう場面の決まりです。
前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。(3項)
ここで効いてくるのは3項です。退職証明書に書けるのは、あなたが請求した項目だけ。請求していない項目を会社が勝手に足すことは、法律で禁じられています。転職先から「前職の在籍証明を出して」と言われたときは、必要な項目だけを指定して請求できる、ということです。
民法627条は理由の中身を要件にしていません。本当の不満をここに書き込む必要はなく、書いたところで得になることもありません。ただし退職の申し出の時期や書式は会社の就業規則で決まっていることがあるので、そこだけは自社の規定を確認してください。
ここで注意してほしいのは、①で穏便に「一身上の都合」と伝えたことが、②に自動で反映されるわけではないという点です。むしろ、ここを混同したまま進むと次の章で損をします。
②離職票の離職理由だけが、お金に直結します
会社を辞めると、離職票(離職票-1と離職票-2)が送られてきます。この離職票-2の⑦欄に、会社が「この人はこういう理由で辞めた」と○を付けた欄があります。
ここが、3か所のうち唯一お金に直結する場所です。雇用保険の失業手当(基本手当)は、この離職理由がどの区分になるかで、必要な在籍月数と、待たされる期間の両方が変わります。
必要な在籍月数が、区分で倍ちがう
| 離職理由の区分 | 必要な被保険者期間 | 数える範囲 |
|---|---|---|
| 特定受給資格者・特定理由離職者以外 =ふつうの自己都合 | 12か月 | 離職前2年間 |
| 特定受給資格者 倒産・解雇など | 6か月 | 離職前1年間 |
| 特定理由離職者 雇止め、正当な理由のある自己都合 | 6か月 | 離職前1年間 |
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出典:厚生労働省「離職された方へ -離職票-2の離職理由欄等(⑦欄及び⑰欄)の記載方法について-」1「離職理由の意義」/厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ」Q2
この表の意味するところは、はっきりしています。たとえば新卒入社から10か月で辞めた人の場合、ふつうの自己都合として処理されれば12か月に届かず、失業手当は1円も出ません。けれど特定理由離職者と認められれば6か月を越えているので、受給資格があります。同じ人が、同じ日に辞めて、理由の区分だけで結論が反転します。
待たされる期間も変わる
| 区分 | 給付制限 | 備考 |
|---|---|---|
| 特定受給資格者・特定理由離職者 | なし | 7日の待期のあと支給へ |
| 正当な理由のない自己都合 退職日が令和7年4月1日以降 | 1か月 | 同年3月31日以前の退職は原則2か月 |
| 5年のうち2回以上、正当な理由なく自己都合退職 受給資格決定を受けた場合 | 3か月 | — |
| 自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇 重責解雇 | 3か月 | — |
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出典:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」Q20/厚生労働省「確かめよう労働条件」退職勧奨後、離職票に自己都合退職と記載されました。対処法は?
「正当な理由のある自己都合」とは何か
ここが実務でいちばん読まれていない部分です。自己都合でも、ハローワークが「正当な理由がある」と認めれば特定理由離職者になります。その範囲は公式に一覧が出ています。
正当な理由のある自己都合の6分類を開く(公式の文言のまま)
(1) 体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した者
(2) 妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法第20条第1項の受給期間延長措置を受けた者
(3) 父若しくは母の死亡、疾病、負傷等のため、父若しくは母を扶養するために離職を余儀なくされた場合又は常時本人の看護を必要とする親族の疾病、負傷等のために離職を余儀なくされた場合のように、家庭の事情が急変したことにより離職した者
(4) 配偶者又は扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難となったことにより離職した者
(5) 結婚に伴う住所の変更、事業所の通勤困難な地への移転、運輸機関の廃止や運行時間の変更などの理由により、通勤不可能又は困難となったことにより離職した者
(6) その他、企業整備による人員整理等で希望退職者の募集に応じて離職した者等
出典:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲」((5)の全7項目と(6)の全文は出典元をご確認ください)
第二新卒で実際に当たりやすいのは(1)です。働き続けたことで体調を崩した、眠れなくなった、という状態で辞めるケースは、文言のうえでは(1)の範囲に入ります。それから、長時間労働やハラスメントで辞めた場合は、自己都合ではなく特定受給資格者のほうに該当する可能性があります。
なお、パワーハラスメントについては該当の線引きが公式に示されています。上司・同僚から「故意」にのけ者にされたり、著しい冷遇や嫌がらせを繰り返し受けたことによる離職が対象で、管理者が職務上の失態を注意・叱責することだけでは該当しません。
離職票に書かれた理由がちがうときは、⑦欄で異議を書きます
届いた離職票を見て「自分が納得して辞めたことになっている」と感じたら、黙って持っていってはいけません。離職票-2には、離職者が自分の主張を書く欄が最初から用意されています。
- ⑦欄の左側(事業主記入欄)を読む
会社がどの離職理由の□に○を付けたか、そして下段の「具体的事情記載欄(事業主用)」に何と書いたかを確認します。ここを読まずに署名してしまう人がいちばん多いところです。
- 異議がないなら、同じ理由の□に○を付ける
離職者記入欄の、事業主と同じ離職理由の□に○を記入します。具体的事情にも異議がなければ、具体的事情記載欄(離職者用)に「同上」と書きます。補足したいことがあれば、その内容を書いて構いません。
- 異議があるなら、自分が該当すると思う□に○を付ける
離職者記入欄の□のうち、自分が該当すると考える離職理由の□に○を記入します。そして具体的事情記載欄(離職者用)に、辞めるに至った原因と経緯を具体的に書きます。ここが唯一、自分の言葉を残せる場所です。
- 主張を裏づける資料を持っていく
ハローワークへ行くときに、自分の主張を確認できる資料があれば持参します。配置転換の辞令の写し、就業規則、労働契約書、賃金台帳、医師の診断書など。資料があるかないかで、通り方がはっきり変わります。
- 受給手続きのときに、口でも伝える
離職票の記載が実際とちがう場合は、手続きのときに窓口の担当者へその旨を伝えます。そのうえで、ハローワークが最終的に離職理由を決定します。決定に不服がある場合の手続きも別に用意されています。
出典:厚生労働省「離職された方へ -離職票-2の離職理由欄等(⑦欄及び⑰欄)の記載方法について-」4/厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ」Q7・Q21・Q23
離職票の⑦欄は、会社と争うための欄ではありません。あなたが主張する離職理由をハローワークに把握してもらうための欄です。公式資料にも「離職者の方が主張する離職理由の確認を行うためのもの」と書かれています。会社に連絡する必要はなく、窓口で伝えるだけで手続きは進みます。
③面接で話す転職理由だけは、「理由」ではなく「これから」
最後が面接です。ここだけは性質が別で、採用側は辞めた原因を知りたいのではなく、同じことがうちで起きないかを知りたいと考えています。人を採る側に座ったことがある立場から言うと、聞いているのはそこだけです。
つまり①②とちがって、ここで必要なのは事実の正確さではなく、次の職場で何が変わるのかを言い切れているかです。この作り方は別の記事で手順に分けてあるので、そちらを見てください。
面接で言っていい形
- 条件・環境のことばで言える(職種、扱う商材、評価のしかた)
- 応募先で何をしたいかに続いている
- 前職をおとしめなくても成立する
そのまま持ち込むと弱い形
- 個人への不満(上司が、先輩が)で止まっている
- 離職票の区分の説明をそのまま読み上げる
- 「一身上の都合」だけで終わらせる
3つあてはまる人は、まだ準備が1か所しか終わっていません
- 退職届に書く文と、面接で話す文を同じにしようとしている
- 離職票-2の⑦欄を見たことがない
- 自分の在籍月数が12か月を越えているか数えていない
- 辞めた原因を「人」のことばでしか説明できない
→ 3つ以上なら、面接対策より先に在籍月数を数えて、離職票の区分を確かめる段階です。
順番は「会社 → 離職票 → 面接」。逆から手をつけると取り返せません
3か所を用意する順番には意味があります。やり直せる順に並べてください。
- 先に在籍月数を数える
賃金の支払われた日数が11日以上ある月を数えて、12か月を越えているかを確認します。越えていればふつうの自己都合でも受給資格があります。越えていない場合は、②の区分が生活に直結します。
- ①会社に伝える退職理由は短くする
「一身上の都合」で足ります。ここで本音を出す必要はありません。
- ②離職票の⑦欄だけは、時間をかけて確認する
会社の記載を読み、異議があれば離職者記入欄と具体的事情記載欄に自分の言葉を残し、資料を持ってハローワークへ行きます。署名してしまうと、あとから言い直すのが難しくなる唯一の場所です。
- ③面接の転職理由は、応募先ごとに作り直す
ここは何度でもやり直せます。1社目で手応えがなければ次で変えればいい。だからこそ、ここに時間をかけすぎて②を取りこぼすのが、いちばん多い失敗です。
この記事は「理由の言葉」の話に限っています。辞めてから何日で入金されるか、在職中に動いたほうがいいのかは、日数を足して確かめたほうが早いので別の記事にまとめてあります。
いずれにしても、辞めるかどうかを決める前に自分の持ち駒がいまどこまで通るのかを見ておいたほうが、3か所ぜんぶの書き方が決まりやすくなります。経歴を並べるところから始めてください。
