※この記事の給料の数字は、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」の統計表を実際にダウンロードして読んだ値だけを載せています。制度の説明は厚生労働省の公式サイトで確認した内容にもとづきます。求人サイトやまとめ記事の数字は使っていません。筆者は元アパレル販売員・元買取査定員で、現在はファッションバイヤー兼古物商として仕入れと買取の仕事をしています。
公的統計に「契約社員」という区分はありません。それでも、正社員との差は30代前半で月8.9万円、30代後半で12.7万円とはっきり出ます。
問題は「いまいくらか」ではなく「この先いくらまで上がるか」です。有期の契約という形そのものが、上限を決めています。まず数字で位置を確認し、そのうえで契約書の3か所を見てください。動かせる手は、辞めなくても2つあります。
先に「いま何ができるか」を見る「アパレル 契約社員 給料」で調べても、金額が出てこない理由
調べた人はもう気づいていると思います。「アパレル 正社員 年収」なら数字が出てくるのに、契約社員だと途端に曖昧な記事しか出てきません。求人票の月給例が並ぶだけで、平均も、5年後の姿も出てこない。
理由ははっきりしています。国の統計に「契約社員」という区分が存在しないからです。
給料の話でいちばん大きな公的統計は、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」です。この調査は雇用形態を次の2つにしか分けていません。
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」主な用語の定義。雇用形態は常用労働者を「正社員・正職員」と「正社員・正職員以外」に区分する、とされている。
契約社員も、嘱託も、フルタイムのパートも、全部まとめて「正社員・正職員以外」という一つの箱に入っています。だから「契約社員の平均年収は◯◯万円」という数字は、公的な出どころからは作れません。ネットでそういう数字を見かけたら、それは求人サイトの掲載データや自社アンケートで、母集団の作り方が書かれていないことがほとんどです。
ただ、これは悪い話ばかりではありません。箱がひとつしかないということは、「正社員かそうでないか」の線が、給料の世界では最も太い線として引かれているという意味でもあります。そしてその線の幅は、統計にきれいに出ます。ここからが本題です。
正社員との差は、30代のあいだに一気に開く
まず結論から見てください。男性・一般労働者の、年齢階級ごとの賃金です。

黒い線が正社員・正職員、赤い線が正社員・正職員以外です。20代前半では44,900円しか離れていません。ところが30〜34歳で89,100円、35〜39歳で126,500円。5年で37,400円ひらきます。
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」第6-1表 雇用形態、性、年齢階級別賃金(男・一般労働者)。差は表の値どうしの引き算。
3つめの数字が、この記事でいちばん重い数字です。正社員以外は、30代前半から50代前半までの20年で、月6,400円しか増えません。同じ20年で正社員は112,200円増えます。
「経験を積めば上がる」という前提そのものが、この線の上には無い、ということです。
| 年齢階級 | 正社員・正職員 | 正社員・正職員以外 | 差 | 格差 正社員=100 |
|---|---|---|---|---|
| 20〜24歳 | 250.0 | 205.1 | 44.9 | 82.0 |
| 25〜29歳 | 292.4 | 236.6 | 55.8 | 80.9 |
| 30〜34歳 | 337.0 | 247.9 | 89.1 | 73.6 |
| 35〜39歳 | 374.2 | 247.7 | 126.5 | 66.2 |
| 40〜44歳 | 406.3 | 250.9 | 155.4 | 61.8 |
| 45〜49歳 | 429.7 | 262.8 | 166.9 | 61.2 |
| 50〜54歳 | 449.2 | 254.3 | 194.9 | 56.6 |
| 55〜59歳 | 460.7 | 262.0 | 198.7 | 56.9 |
← 横にスクロールできます(単位:千円・男・一般労働者・全産業)
この数字は「年齢の違い」で説明がつかない
賃金の比較でいちばんよくある落とし穴は、平均年齢の違いを見落とすことです。実際、この調査でも正社員・正職員以外の平均年齢は53.4歳で、正社員の44.1歳よりかなり高い。全体の平均どうしを比べると、この年齢差が混ざります。
その混ざりを避けるために、この記事では年齢階級ごとに区切った表を使っています。30〜34歳どうし、35〜39歳どうしの比較です。同じ年代の男性の中で、89,100円・126,500円の差がついている、という読み方になります。
アパレルが属する業界は、この差が大きい側にある
次に、業界で切ります。アパレルの店舗と本部が入るのは「卸売業,小売業」です。産業別に、男性の正社員と正社員以外の賃金を並べたのが下の表です。
| 産業 | 正社員・正職員 | 正社員・正職員以外 | 差 | 格差 正社員=100 |
|---|---|---|---|---|
| 卸売業,小売業 | 403.0 | 265.0 | 138.0 | 65.8 |
| 製造業 | 366.8 | 256.2 | 110.6 | 69.8 |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 327.8 | 229.6 | 98.2 | 70.0 |
| 医療,福祉 | 386.9 | 289.4 | 97.5 | 74.8 |
| 建設業 | 383.2 | 322.7 | 60.5 | 84.2 |
← 横にスクロールできます(単位:千円・男・一般労働者)
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」第6-3表 雇用形態、性、産業別賃金。掲載16産業のうち5つを抜粋。
卸売業,小売業の格差は65.8。正社員を100としたとき、正社員以外は65.8の水準です。建設業(84.2)や医療,福祉(74.8)と比べると、明らかに低い側に位置しています。
売場に立っていると実感しにくいのですが、これは業界の構造です。小売は、正社員以外の人員で店を回す設計になっている業界で、契約社員というポジションも「回すための枠」として設けられていることが多い。仕事の中身が正社員と同じでも、枠の設計が別なら賃金テーブルも別になります。
販売員だったころ、同じフロアに正社員と契約社員が混ざっていました。開店前の掃除も、棚替えも、閉店後のレジ締めも同じ。違ったのは、契約社員の人だけ「来期の話」に呼ばれないことでした。半年後に自分がここにいるかどうかを、自分では決められない。あの感じは、金額よりもきついものでした。
金額の差は、あとから取り返せます。取り返しにくいのは、この「来期の話に入っていない」ほうです。そしてそれは気分の問題ではなく、契約の形から出てくる結果です。次の章で、その形を分解します。
上がらないのは「有期契約」という形のせい
契約社員という呼び方は会社が付けた名前で、法律上の正体は有期労働契約です。期間の定めのある契約、つまり終わりの日が決まっている契約を、更新でつないでいる状態を指します。
この形が給料に効く道筋は3つあります。
- 昇給の階段が用意されていない
期間ごとに条件を決め直す設計なので、「何年目でいくら」という長い階段を最初から持っていない会社が多くなります。先ほどの折れ線で、赤い線が横ばいだったのはこの結果です。
- 賞与や手当の対象から外れやすい
賞与は「今後も在籍する人への配分」という性格を持つため、期間が区切られている側には出さない設計になりやすい。統計の賃金(所定内給与額)には賞与が入っていないので、実際の年収差はもっと開きます。
- 交渉の場が更新のときしか来ない
正社員は評価のたびに条件が動きますが、有期だと更新の面談が事実上の唯一の場になります。しかもその場は「続けるかどうか」の話になりやすく、金額の話に持ち込みにくい。
ここまで読むと、絶望的な話に見えるかもしれません。ですが、この3つのうち少なくとも2つには、法律の側から用意されたてこがあります。使っている人が少ないだけです。
辞める前に、社内で使える手が2つ残っています。どちらも会社が用意するものではなく、あなたから申し出るものです。使ったうえで動かなければ、そのときは外を見れば済みます。
まず、自分の契約書の3か所を見る
次に進む前に、労働契約書(雇用契約書)を出してきてください。見るのは3か所だけです。
- 契約期間(始まりの日と終わりの日)
1年契約か、半年か、3か月か。ここが更新のサイクルで、あなたが条件の話をできる間隔でもあります。
- この会社で通算して何年になるか
いまの契約書だけでなく、最初に入った日から数えます。途中で部署や店舗が変わっていても、同じ会社ならつながります。これが5年を超えるかどうかが分かれ目です。
- 更新の上限が書かれていないか
「更新は通算4年を上限とする」「更新回数は3回まで」といった記載です。書かれている場合、その先の設計が会社側にあるということなので、読み方が変わります。
3つ以上あてはまる人は、いまが動きどきです
- 入社してから基本給がほとんど変わっていない
- 賞与が出ない、または寸志のみ
- 同じ売場の正社員と、仕事の中身がほぼ同じ
- 更新のたびに「来期どうする?」の一言で終わっている
- 通算の勤続が4年を超えている、または上限の記載がある
→ 3つ以上なら、次の章の2つの手を先に使ってください。使わずに転職しても、次の会社で同じ形を選んでしまうことがあります。
ここまでで、自分がどの位置にいるかは分かったはずです。金額の全体像をもう少し詰めたい人は、正社員側の金額を決めている3つの条件をまとめた記事もあります。
辞めなくても使える手が2つある
手その1:通算5年を超えたら、無期契約に変えられる
労働契約法第18条に「無期転換ルール」があります。同じ会社との有期労働契約が更新されて通算5年を超えたとき、あなたの申込みによって、期間の定めのない契約に変わるという制度です。
出典:厚生労働省「有期契約労働者の無期転換サイト」および同サイト掲載の無期転換Q&A(Q1・Q2・Q4・Q6・Q7)。
押さえておきたい点を、公式のQ&Aから拾って並べます。
- 名前は問われない
契約社員でもパートでもアルバイトでも、有期契約であれば対象です。呼び方は関係ありません。
- 自動では変わらない
5年を超えても、勝手に無期になることはありません。あなたが申し込んで初めて成立します。そして会社はこれを断れません。口頭でも法律上は有効ですが、記録が残る書面で行うのが安全です。
- 通算は2013年4月1日以降の契約から
それより前に始まった契約期間は数えません。
- 異動があってもつながる
同じ会社の中で職種が変わっても、A店からB店へ移っても、契約期間は通算されます。
- 空白期間には注意
契約が存在しない期間が6か月以上あると、それより前の期間が通算から外れます(クーリング)。一度辞めて出戻った人は、ここを確認してください。
ただし、ここは正直に書いておきます。無期転換だけでは給料は上がりません。
厚生労働省のQ&A(Q12)にこう書かれています。無期転換後の給与や待遇は、労働協約・就業規則・個々の労働契約に別段の定めがある部分を除き、直前の有期契約と同一になります。
無期転換で手に入るもの
- 契約の終わりの日がなくなる
- 更新のたびの不安が消える
- 長い評価の土俵に乗れる
- 住宅ローンなどの審査で見られ方が変わる
無期転換では手に入らないもの
- 自動的な昇給
- 賞与の支給
- 正社員の肩書き
- 正社員と同じ賃金テーブル
「5年待てば給料が上がる」ではありません。上がるための土俵に乗るだけです。それでも意味はあります。先ほどの折れ線が横ばいだったいちばんの理由は「期間が区切られていること」なので、そこを外してから条件の話をするほうが、話が通りやすくなります。
手その2:正社員との待遇差の理由を、会社に説明させられる
こちらのほうが、金額に直接効きます。2021年4月からすべての企業で、基本給・賞与・手当などあらゆる待遇について、有期雇用労働者と正社員のあいだに不合理な待遇差を設けることが禁止されています。パートタイム・有期雇用労働法という法律です。
そして同じ法律に、働く側から使える条文があります。
正社員との待遇の違いと、その理由について、事業主に説明を求めることができます。事業主は説明を拒否できません。説明を求めたことを理由に不利益な取扱いをすることも、法律で禁止されています。
出典:厚生労働省「多様な働き方の実現応援サイト」パートタイム・有期雇用で働く方へ。
厚生労働省のサイトは、聞き方の例まで載せています。そのまま使える言い方です。
- 「私と同じような仕事をしている正社員と、待遇にどのような違いがあるか教えてください」
まず違いの一覧を出させる質問です。ここで初めて、自分が何を受け取っていないのかが分かります。
- 「なぜ契約社員には賞与が支払われないのでしょうか」
理由を言わせる質問です。「そういう決まりだから」は理由になりません。
- 「正社員と計算方法が違うのはなぜでしょうか」
手当ごとに聞きます。通勤手当や食事手当のように、仕事の中身と関係が薄い手当ほど、差の説明が難しくなります。
説明を聞いても納得できないとき、話が進まないときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が相談先です。無料・非公開で、紛争解決援助や調停という手続きも用意されています。厚生労働省のサイトには、有期雇用の人が通勤手当の上限を不合理だと申し立て、会社が全額支給に見直した例が載っています。
厚生労働省の解説と相談窓口を見る2つの手を使っても動かないなら、外の相場を見る
ここまでの2つは、いまの会社の中で使う手でした。使ったうえで、それでも条件が動かない会社もあります。そのときに初めて、外を見る段階になります。
ただ、いきなり辞める必要はありません。見るべきなのは求人そのものではなく、正社員の枠が、いまの自分の経験でいくらの値札を付けられているかです。それが分かって初めて、社内に残るか出るかを比べられます。
iDA
アパレル・ファッション業界に特化した人材紹介サービスです。業界の中で正社員の求人を横断して見られるので、「販売の仕事は続けたいが、契約の形だけを変えたい」という探し方に向いています。まず登録して、いまの経験にどの程度の条件が付くのかを確かめる使い方ができます。
iDAで求人を見る 登録・相談の可否や最新の条件は公式ページでご確認ください面談で必ず聞かれるのが、いまの条件です。ここで月給ではなく「賞与込みの年収」を1つの数字にして持っていくと、話が早く進みます。契約社員だと賞与がゼロのことが多いので、月給×12がそのまま年収になります。その数字を出して、正社員の求人と並べたときに何が変わるかを見る。これが比較の最小単位です。
「契約社員だと転職で不利になる」と言われるのは本当か
職務経歴書に書くのは雇用形態ではなく、担当した売場・扱った金額・任された範囲です。契約社員でも店舗のリーダーをしていた人はいますし、正社員でもレジ以外を任されなかった人はいます。見られるのは中身のほうです。ただし、更新のたびに会社が変わっている場合は、勤務期間が細切れに見えるので、同じ業務を続けていたことが分かる書き方にしておく必要があります。
よくある質問
アパレルの契約社員の平均年収はいくらですか?
正社員との差はどのくらいありますか?
5年働けば正社員になれるのですか?
正社員と同じ仕事なのに賞与が出ないのは違法ですか?
まとめ
「アパレルの契約社員の給料はいくらか」に、公的な数字で答えることはできません。統計にその区分がないからです。それでも分かることは、はっきりしています。
- 差は30代のあいだに開く
男性・同年代の比較で、30〜34歳が月8.9万円、35〜39歳が月12.7万円。5年で3.7万円ひらきます。
- 正社員以外の線は、年齢では動かない
30代前半から50代前半までの20年で月6,400円。正社員は同じ20年で11万2,200円増えます。待っていても上がる形になっていません。
- 辞める前に使える手が2つある
通算5年超の無期転換(労働契約法18条)と、待遇差の説明を求めること(パートタイム・有期雇用労働法)。どちらも会社からは案内されません。あなたから申し出るものです。
まず契約書を出して、契約期間・通算年数・更新上限の3か所を確認してください。動き出すのはそれからで間に合います。
